犬かごWebアンソロジー
□見えているのは
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「また今日もだめ…。」
井戸を登って、見なれた祠の中にとん、と立つ。
何度目かもわからないため息が口からこぼれる。
ずるずると井戸に体重をかけるように座り込む。
「もう…会えないのかな…。」
まるで夢のように甘く、辛かった1年の日々。
今ではあの世界があったという証拠といえるものは何もなくて。
ただ1つの証拠と言えばあたしの心に残る彼への想いだけ。
ぎゅっと膝をかかえる。
「やっぱり…あれ以上望まないほうがよかったのかな…。」
たとえ犬夜叉が桔梗のことを1番に想っているとしても。
―――――犬夜叉のそばにいられるなら、たとえ1番じゃなくてもよかった。
だけど人間の心は欲深くて。次々と欲しいものが出来てしまう。
犬夜叉の心が欲しい。
犬夜叉を独り占めしたい。
―――――ずっと、そばにいたい。
「会いたいよ…犬夜叉…。」
言葉さえも、祠の中で消え去ってしまう。
ぬくもりも、姿も。
―――――愛しささえ、いつかは消え去ってしまうかもしれない。
「会いに来てよ犬夜叉…。」
ぽろぽろと涙が溢れ出てくる。
「いつもあたしが帰ったとき迎えに来てたじゃない…っ!」
声も消えてゆく。
「見えないよ……。」
犬夜叉の姿が。犬夜叉への想いの証が。
―――――この先の希望が。