犬かごWebアンソロジー
□子夜の閨
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目が覚めた。やけに寝心地好いと思ったらかごめの布団の上にいた。
どうやら彼女の帰りを待ってる間に寝てしまっていたらしい。
霞む目を前に向けると、机に向かって勉強をしている待ち人が居た。
『子夜の閨』
「あ、起きた?」
キィッと椅子を鳴らしてかごめが振り返った。こいつが帰ってきたことにすら気付かないほど熟睡してたなんて。格好がつかなくて苦笑する。
「おう、…またべんきょーしてんのか?」
「うん。でもそろそろ止めようかなあ」
うーん、と座ったまま大きな伸びをするかごめ。そのせいで椅子が更に音を立てる。彼女は椅子から降りて、今度は俺の隣に座った。
欠伸をしている彼女を横目で盗み見する。
髪はしっとり濡れて彼女の優しい匂いを色濃くし、普段とはまた違う異国の着物がとても似合う。
少しどぎまぎしている自分に気付いて慌てる。顔を窓に逸らして今日ここに来た理由を思い出した。
「あの、よ…」
「え、なあに?」
「……今日ここに泊まっても良いか?」
「へ?」
「追い出されたんだよ、弥勒の奴に」
――
そう、かごめが井戸をくぐってどのくらい経った頃のことだろうか。井戸の淵に手をかけて暇を持て余していると、後ろから足音と金属が擦り合う高い音が聴こえた。
じゃらん、と俺のすぐ後ろに立ったのは、
「何のようでい、弥勒」
「おや、気付かれましたか」
「ったりめえだろ」
後ろを振り返るのも面倒で井戸の底を見ながら返事をする。するとコツン、と錫杖で頭を小突かれた。
「んだよ」
ようやく弥勒の顔を見た俺に満足したのだろうか、彼はニマリと笑った。そう、確かにニマリと。
「……んだよ」
俺は再度そう尋ねた。
「大したことではありませんよ」
弥勒は人差し指を突き立ててもう一度笑った。
「お前、今宵はかごめさまのところへ行ってはくれぬか?」
「はあっ!?」
「そこまで驚くことはないだろう」
「なんでそんなことしなくちゃなんねえんだよ」
「嫌か」
「は」
「そうか、かごめさまと夜を過ごすのはそんなに嫌か。いやはや、そうでしたか…」
「んなっ…こと言ってねえ……っ!」