犬かごWebアンソロジー
□子夜の閨
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しまった。これは肯定を意味する返答だ。その瞬間井戸の中に蹴り落とされた。
「帰ってくるなよ、私も珊瑚と色々語りたいのでな」
向こうの世界に移動する瞬間、そんな台詞が聴こえた。気付いた時にはもうかごめの国の井戸の底で。
「…あんにゃろう……」
戻りたくも、戻れない。何故ならもしそうした場合、殺されかねないのだ、情けない話だが。
〔かごめさまと夜を過ごすのは嫌か〕
嫌なわけねえだろ。寧ろ…
「っなに、考えてんだ…!!」
ぶるん、と頭を振って邪念を払う。アイツがあんなことを言うから変に意識しちまうじゃねえか。
窓を開けると部屋の主は居なかった。少し安心しながらも不満を覚える。どうせ「がっこー」とやらに行っているのだろう。
かごめの匂いがする布団に座り込む。部屋を見渡し、布団に顔を寄せ、目を閉じているとひどく落ち着いた。
――
そして今に至るのである。一部は省略しながらも大体の経緯を話すとかごめは苦笑した。
「いいよ、ゆっくり休んでいって」
「……おう」
ちょっと待っててね、と階下に降りていくかごめ。それを眺めながら布団に倒れ込む。あんなに眠ったというのに、この匂いに包まれるとどうも眠くなる。
「お待たせ」
ふと顔をあげるとかごめが覗き込んでいた。距離が近い。
「別に」
「寝よっか、もう12時だし」
「じゅーに…?」
「えっと…子の刻のことよ」
「ああ」
それならこの少女が眠いのも分かる。ゆっくり起き上がってベッドから降りる。
「犬夜叉は寝ないの?」
「寝ねえよ」
「そっか、さっきあれだけ寝たもんね」
「……」
笑いながらベッドに上がるかごめにムッとする。先程眠りこけていた手前反論は出来ない。
「じゃあ、おやすみ犬夜叉」
「……おう」
カチリと音がして部屋が暗くなる。それでも目が慣れると明るい、まではいかないけれど物を見るのに苦労はしない。
かごめの枕元のすぐ下に座り、ベッドに寄りかかった。この位置からだと外がよく見える。月明かりが淡く部屋を照らしていた。