シンビジウム


□three
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ひとまず電車に乗り込んだあたしは自分のバックの中身を確認しなければと肩にかけたままだったバックを開く

急いで荷造りしたせいで
もともと収納下手なあたしのカバンは悲惨な状態になっていた



化粧ポーチに長財布、充電器とiPodとなぜか一年くらい前に左之とお揃いで買ったPSPが入っていて、すぐに飽きたはずなのに自分はいったいどこから引っ張り出してきたんだろう

よっぽど慌てていたんだろうなと他人事のように苦笑した



それから黒いカバンの中に
一際栄える赤


前の白いiPhoneを解約して新しくかったiPhoneは左之の髪によく似た赤い色


もちろん自分で選んだわけじゃなくて。言い訳がましいけど体が勝手に赤い色を手にとった



お店のお姉さんの「赤は人気ですからすぐなくなりますよ」なんて、見え透いたセールストークにあたしのくだらない独占欲が働いたと言ってもいい




前のiPhoneは引き払った家のリビングに置き去りにしてきた


どうせ後で業者がきていらないものを処分するだろうからあたしがわざわざ処分する必要はないだろうと思った…


といえば聞こえはいいが要は左之とお揃いのストラップがついたiPhoneを自分じゃ処分しきらなかっただけだ




「怖いだけ、なんだよね」




左之を連想させるものが手元にあると思わず彼にすがりたくなってしまう



その広い胸に飛び込んで
大きな手で頭を撫でて
あなたの声で愛を囁いてほしい




けれどそれが今の私にはどんな罰よりもつらくて、怖くて。



一刻も早く彼の手の、目の、耳の、届かないところに行きたかった



その第一歩をようやく踏み出したあたしはゆっくりと顔をあげる



ふと視界に入った電車の窓の外を流れる住み慣れた町の景色に泣きそうになるのをぐっ、と堪えて別れを告げた




「さよなら、…大好きな人」























(そしてさようなら、恋心)
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