シンビジウム
□four
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きっちりと着こなしたダークグレーのスーツに男の人にしては少し長めの髪
なのに暗い印象はなくて、むしろ鋭い眼差しは底冷えするように冷たい印象を与える
「こんな道のど真ん中で何をしている。と聞いているんだが」
「あ、ごめんなさ、い」
そう言われてようやく自分が彼の通行の邪魔になっているのだと気づいて脇に避ける
ああもう、ホントに嫌になる
見ず知らずの人にまで迷惑をかけて、あたしに生きる価値なんかない。早く死のう。
そう思って立ち去ろうとした、あたしの手を掴んだのは紛れもない、あたしが通行の邪魔をしていた彼だった
「あんた、…泣いてるのか」
いきなり何を言い出すかと思えば見られていたらしい。とっさに繕おうとして出てきた言葉は
「大丈夫、だから…。泣いて、なっ」
肯定にも否定にもとれる意味不明であやふやな言い訳だった
「…泣いているんだろう」
「うるさいってば、早く消えて」
ぐいっと腕を引かれ正面から見据えられることに居心地の悪さを感じて思わず目を逸らし掴まれた手を振り払った
がしゃん!
手を振り払ったあと反動に耐え切れなくなったあたしが酔いが回っていることも関係して近くのフェンスに激突
ああもうダサい
初対面の人に泣いてる顔を見られて、逆ギレして、転んで。
一体あたしは何してるんだろう
そう思ったらまた涙が溢れた
「あんた、酔ってるのか。…誰か知り合いに連絡して迎えに来てもらえ。恋人とか、友達とか」
まるで事務作業をするように淡々と告げる彼に、酔いの回っているあたしはとんでもない暴言を吐いた
「うるさいな。フラれたの!好きな人に捨てられてやけ酒してたのっ…!死のうと思ってたのっ!あなたに関係ないでしょ!」
最低だ、あたし
彼は親切心で言ってくれてるのに。むしろ彼こそ災難としか言いようがないじゃないか
だけど一度崩壊した涙腺と溢れ出した言葉をせき止める術を知らなくて、あたしの口は心に溜め込んでいた思いを吐露した
「あたしの全ては彼のためにあるって思ってたのに!勘違いして馬鹿みたい…。大好きだったの、にっ…!彼に捨てられて、生きて、るのも、嫌になったの!」
もう何を言えばいいのかわからなくなって、その場にいるのさえつらくなってあたしは踵をかえした