†薄桜鬼†

□†壱ノ夜†
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幕末 文久三年ー







江戸育ちの蘭方医の娘、雪村千鶴は華の都、京都を訪れていた




それというのも父であり千鶴と離れ京都で仕事をしていた雪村綱道との連絡が取れなくなってしまったのだ





父を心配し単身、京都を訪れた千鶴は目の前に広がる景色に不安と期待を募らせていた






×××









「ここが、京の都……」


活気あふれる町に
ほう、感嘆の息を漏らす





と、同時に千鶴の心には言い表せない不安が押し寄せてくる





とうとう来てしまった
何も知らないこの地へ





父と連絡が取れなくなり一ヶ月。
心配になって京都へ来たはいいが手がかりなんてものは全くない



ましてやこの広い京都で本当に父が見つかるのだろうか…?






それに重ねて頼りにしていた松本先生さえ京都にはいないという




(どうしよう…)




太陽が傾き日が暮れていく様子にとりあえず宿を探そうと踵を返したその時





ドンッ!!!



「きゃっ」


「おっと、悪ィ」




後ろから近づいて来た人影に気づいていなかった千鶴は急に振り返ったため後ろにいた男にぶつかった





「大丈夫かァ?」


「あ……はい!」




男に腕を掴まれるような形で尻餅を付くのを回避した千鶴は慌てて立ち上がり頭を下げた




「すいませんでした」



「気にすんな…ところでお前、ここらじゃ見ない顔だなァ?京に来るのは初めてか?」




「え…?あ、はい。」




不躾な質問をしてきた男に千鶴は戸惑いを隠せないようで少なからず怯えている



「そうかァ…初めてねェ…」




ぶつぶつと呟いている男
そこまで来て千鶴はやっと等身大の彼の姿を見た




「綺麗…」



腰で伸ばされた金色の髪
澄んだ紫の瞳
整った顔つきに凛々しくも線の細い体




胸元のはだけた薄緑の着流しに赤と金が入り混じった羽織り


片手には朱塗りのキセルを持ち時折思い出したように口に含む






いかにも伊達男、といわんばかりの姿に町娘は遠めから顔を赤くし男の姿を眺めている



当の男はそんなことなど全く気にしていないようでキセルを吹かしながら何か考えるようなそぶりをしている
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