†薄桜鬼†

□†伍ノ夜†
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それから数ヶ月、昼の繁華街をブラブラと歩いていた眞那は前方から町人達が蜘蛛の子を散らすように走ってくるのを見た


「なんかあったなァ…?」


ニヤリと笑い町人達とは真反対の方向へと歩きだす眞那



退屈しなくて済みそうだなァ
というつぶやきは街の喧騒に飲まれて消えていった





















「新選組だと!?逃げろ!」

「え?、え?」


繁華街の一角、桝屋
そこの門前でキョロキョロと辺りを見回し不安そうな千鶴を見つけた時眞那は本当に笑いそうになった



「さては大捕り物でも始まったなァ?」


今日の巡察は沖田

それに同行していたはずの千鶴がこんな所にいるということは沖田達がやらかしたのだろう



「桝屋喜右衛門の正体がバレちまったみてェだなァ…?」


せっかく山崎に足止めさせ、泳がせていたのにと眞那は舌打ちする


「もったいねェことしてくれるぜ。ま、この状況なら捕まえるしかないだろォがな」





眞那は屯所に帰ったらお小言を喰らうであろう二人に心の中で礼をした





































『一番組組長が監視対象を見失うなど…。全く、情けないこともあったものですね?』


『外出を許可したのは俺だ。こいつらばかり責めないでやってくれ』


夕飯に間に合うように帰宅した眞那の耳に届いた不機嫌極まりない山南の声



そんな山南を宥めるような声も聞こえ、眞那は苦笑しながらその部屋の襖に寄り掛かった






『それ、単に天子様を誘拐するってことだろ?』

『何にしろ、見過ごせるものではない』



部屋の中から聞こえてくる会話に眞那は舌打ちしたい衝動に駆られる


(ついに動きだしたか…)


『奴らの会合は今夜行われる可能性が高い。てめえらも出動準備を整えておけ』



(今夜か…場所の確認だけでもしておいたほうがいいなァ…)



眞那はゆるりと歩きだした
























討ち入りの準備が始まり屯所内はピリピリとした緊張感に包まれている


むしろ眞那にはこのくらいの緊張感があったほうが張り合いがあるというものだが




ふと一室の前を通りかかると原田と斎藤の話し声が聞こえてきた


『動ける隊士が足りていない。近藤さんの隊は十名で動くそうだ』

『俺ら土方さんの隊は二十四人だったか?隊士の半分が腹痛って笑えないな』



苦笑まじりの左之の言葉に眞那は眉間にシワを寄せた




会合の可能性があるのは池田屋と四国屋の二カ所


いくら精鋭だとはいえ多勢に無勢では勝てるものも勝てないだろう

こちらに増援を寄越そうにも下手に動けば被害を被ることもありえる


こちらは精鋭だが数が足りず
向こうは数だけだが兵力に勝る



(ならば──)


頭の中で策を組み立てていた眞那の思考を停止させたのは原田の一言



『そういえばあいつらは使わないのか?夜の任務だし、打ってつけだと思うんだが』



原田の示唆する『あいつら』が羅刹隊だと瞬時に理解した眞那は一瞬、我を忘れて襖を開いた


「駄目だ」


「っ?!眞那?」

「…」


突然の登場に原田は息を呑み、斎藤は気まずそうに俯いた


「奴らは血に触れるたび狂う。あいつらを討ち入りに行かせたら間違いなく新選組にも被害がでるだろうからなァ」



そりゃそうだが…とやりきれないように頭をかく原田に眞那は自嘲じみた笑みを浮かべた



「確かにあいつらは同士だった。けどなァ…今は、」

「分かったよ…悪かった」



降参だとばかりに手を上げた左之に眞那はようやく平静を取り戻した
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