†短編†
□×初夏の風に願う×
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そよ吹く風に髪がなびき
羽織っている女物の着物がぶわりと広がった
「すっかり夏だなァ…」
陽射しが降り注ぐ廊下で足を止め照り付ける太陽にふっ、と目を細めた
肌に纏わり付くような湿気にいつもはおろしている髪を簪で留めた眞那はゆるりと歩き出す
蝉のなく声も
カサカサとゆれる木々の葉も
初夏の訪れを告げるかのようだ
「お?珍しく早起きだな。眞那」
広間に足を運ぶといつもは平助達といる佐之が一人でお茶を飲んでいた
「昨日は早寝したからなァ。…お前こそ、一人なんて珍しいじゃねェか。平助達はどうしたァ?」
袂からキセルを取り出しながら自分の隣に座った眞那に佐之は苦笑した
「平助は千鶴と祭に行った。新八は島原だ」
キセルを燻らす眞那は佐之の言葉にクックッと笑う
「二人共昼間っから盛ってんなァ」
「久々の休みだからな」
ひとしきり笑い合った後で佐之はふと隣にいる眞那に視線を移した
「千鶴と祭かァ…平助も男になったんだなァ」
あの餓鬼が…とキツい言葉とは裏腹に眞那は嬉しそうに微笑んでいる
「眞那は行かないのか?」
「祭にかァ?行く相手もいねェのに虚しいだけだろォが」
「この間町で声かけてきた女がいただろ」
「あァ?…忘れた」
どうでもいいといわんばかりの眞那の言葉に佐之は安心し、驚いていた