シンビジウム
□four
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言い逃げだろうがなんだろうが
あれ以上彼に関わりたくなかった
彼の目は全てを見透かすようにあたしの中まで入ってきて、隠し事なんて許さないと言わんばかりの目
なにもかもを言葉にされてしまったらと衝動的に逃げ出したといったほうが正しいかもしれない
なのに
「何故!逃げる!?」
「やめて!放っといて!」
なぜ
彼はあたしを追いかけてくるんだろうか。お願いだから自由にさせてほしい。そうしたらあたしはさっさとこの世とさよならできるのに。
「あたしには帰る場所もなにもないの!もう後戻りできない!離して!離してってば!」
「あんた、死ぬとかなんとか言っていただろう!?」
「あ、や、それは、その、また今度!」
「今度とはどういう意味だ!」
何がなんでも離すまいと握る彼の手から逃れたくて、とっさについた嘘は苦し紛れの言い訳
「とりあえず今日は帰る!帰ります!家に!」
「……」
ほら、なんていい人なんだろう
あたしが家に帰ると聞いたら若干腕を握る力が弱まった
嘘ついてごめんなさい
だけど最後にあなたみたいなイケメンで優しい人に出会えて本当によかったです
「迷惑かけて、すみません。家に帰って頭冷やしますね」
深々と頭を下げて彼が何か言う前にあたしはその場から逃げ出した
彼が追ってくることはないだろう。とってもいい人だったな。
あたしが最後にであったのは
黒髪で美形で優しい男の人
end