†薄桜鬼†

□†初ノ夜†
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自身以外誰もいなくなった部屋で眞那はため息をついた


「鬼一族の先も長くはないか…」





鬼一族の中で
もっとも勢力がある風間と雪村

その影の支配者である黒羽



その御三家がそれぞれの役割を果たすことで鬼一族は悠久ともいえる時を生きてきたのだ





それを壊したのは 人間

山々の侵略を繰り返し

木々を刈り取り

野生の獣を喰らう



それが世の中の連鎖だとしたらそれもまたしかり、だが雪村は助力を頼まれた人間共に滅ぼされた


理由はただ一つ
鬼の力を恐れているから






古来より鬼一族は森の奥深くでひっそりと暮らしていたのだ


それがひとたび世に出れば
化け物だのあやかしだのと疎まれ、蔑まれる



また鬼の力を利用しようと近づいてくる人間だって珍しくない




そういう人間達に対して雪村は自分達一族の誇りを守り通したのだ




結果云々ではなく眞那はその事実こそが誇るべきものだと思っている





「潮時、か」




雪村一族が滅ぼされ鬼への風当たりはさらに苛烈するだろう

また、同族を人間に滅ぼされた憎しみや悲しみを鬼達がいつまで抑えていられるかも分からない




(それならば…─)



眞那は黒羽家頭領として決断を迫られていた



ただ部屋の中央に立ち尽くし眞那は思案にふける



「眞那」


ふと呼ばれて眞那は顔を上げた



目の前には青い髪の少年の姿



「匡か、どうした?」


自分と同じ赤い瞳が不安に揺れているのがわかる



「前に、言ったよな?鬼一族は俺が守るって」

「ああ」

「…守って、くれるよな?」



自分を見つめる瞳に眞那はニヤリと口角を吊り上げた



「愚問だ」


眞那の言葉に少年はとても嬉しそうに笑った



その笑顔に眞那は
重大な決断をした





























「とりあえずは風間一族と西へ下り、姿をくらます」



夜の帳が降りた部屋で小さな少年とがっしりとした体型の男が向かいあって盃を交わしている




「それが最良、か」


少年の言葉に風間家頭領はただ深く頷いた





事態は一刻を争うものになりつつある
姿をくらますのであれば早いにこしたことはないはずだ



ほとぼりが冷めるまで潜み、新天地を求めるのも時には必要なのだ




風間の頭領もそれ以外に打開策はないと分かっているため反対しない



それ以上に、感心していた



自分の目の前にいるのはまだ十歳にも満たない小さな少年


影の支配者として一族をその小さな背中に背負っている


いったいどんな苦労をしてきたのか、赤く冷めた瞳は立派な大人鬼のソレだ





自分にもこの少年と同じくらいの息子がいるが、この少年と比べてみれば無愛想ながらも無垢な息子だと思った
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