Zero
□序章
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「迷子の足音 消えた」
歌っている。
僕は、みんなが眠るまで、歌っている。みんなは目をとじて、それを聞いている。
「代わりに 祈りの歌を」
静かな泣き声が聞こえる。僕はつられないように、自分の歌に集中して無理矢理歌を続ける。
「そこで炎になるのだろう」
泣き声が、ようやく静まり始める。ーよかった。皆、眠っただろうか。
もうそろそろ僕も、意識が遠のき始めていた。
「続く者の 灯火に」
ドサ、
知っているのはここまでだ。胸に当てていた左手が力なく落ちる。もう、力が入らない。口も開かなかった。
…寂しいな、と思い、最後の力で隣のデュースの手を握り、頭を預ける。
ここまでだ。
…みんな、眠っているようだ。
案外苦しさや痛みはもうなかった。強烈な寂しさと怖さが渦巻いていたが、それは無理やり押し込んだ。
考えれば、やりたいことがまだあった。ケイトが言ってたみたいに、マザーと旅に行きたい。闘い以外の勉強も、皆でしたい。これから先、ずっとずっと先まで皆一緒がよかった。
…でも、叶わないな。それは変えられない。
…考えても仕方ない、そろそろ眠る時間だ。
きっとまた、みんな会えるよな。…もう、眠らないと。
おやすみ。また明…
「瞳の色は 夜の色」
…?
声が聞こえる。すぐそばに。聞いた事のあるメロディーだ。でも、歌詞は良く知らない
「透明な空と 同じ黒」
それに、どこかで聞いたことのある声がする。
とてつもなく、安心する……
そうだ、これは……
「マ、ザー……?」
重い目を開いて、名前を呼ぶ。かすれた風景が目に映る。前には、優しく微笑んだマザーが立っていた。
「まだ、眠ってはダメよ、エース」
「…マザー…」
マザーが僕に手を差しのべると、ふと体が軽くなる。だんだん視界が晴れ始め、意識がだんだんとはっきりしてくる。…あれ、痛みがない?体に視線を移すと、傷口が塞がって痛々しさの消えた肌が見える。
…まさか、どうして…
「マ、ザー?」
「マザぁ…」
怪訝に思っていると、周りにいたみんなが動きだした。掠れている声でマザーなのか、と問うている。目をやると、みんなも僕と同じように傷は消え、先程までは蒼白だった顔にも色がもどってきていた。
ありえない状況。目を閉じていた筈のみんなが、元気そうにまた起き上がっている。
……みんな、生きている………?
胸に手を当て心音を感じながら、不可解なこの現象に疑問を抱く。まさか、完全にファントマも傷付いていただろう状況の僕らを生き返らせるなど、いくらマザーにも出来ないはずだ。
「あなたたち」
優しく、聞き慣れた声が響く。この状況が理解出来ずざわめいていたみんなも、ふっと静かになった。
「まだ眠ってはいけない。あなたたちには、まだ使命があるのよ」
「…使命…ですか…?」
マザーの言った言葉にクイーンが反応する。みんなもクイーンに同調する様にマザーに疑問の視線を向ける。冷たい風が皆の頬を撫でた。
「そうよ。この世界には、まだあなたたちの使命があるの。そうね、やらなくてはいけない事、と言ったらいいかしら」
「やらなくてはいけない…」
マザーが言うと、みんなが噛み締める様にその言葉を繰り返す。お互いが生きているだけでも不思議なのに突然言われ、皆も少なからず混乱している様だ。軽くなった体を持て余しながら、みんながめいめいに考えている。
その様子を見て、マザーが愛おしそうに笑い、話しだす。
「とにかく、あなたたちは必要な存在なの。生きて、立ち向かわなければいけないことがまだまだある。だから、起きて戦うのよ。…わかったわね?」
しっかりと僕たちの目を見据えていうマザーに、僕たちは吸い寄せられる様に頷く。
そのまま全員が立ち上がり、制服を払いマザーの元に近寄り出す。ぐるりと全員を見回して、囁く様な声で言った。
「行きなさい」
マザーの声が、深く響いた。僕たちは、一つの困難に向かって歩き出した。
ガラスは堕ちた
(始まりの日)
お題・Lump