♀長編

□弐
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昔━━━ある所に


着物問屋の裕福な娘と

長屋暮らしの男が居ました。

娘の名はお一(おいち)
男の名は円堂守、




生き様も生活も違う2人は他愛も無いキッカケで仲良くなり、互いを好いていきました。


でも幸せは長くは続かないのでした。




2人が12の年のこと。

円堂殿の両親が不幸に死んでしまい、多額の借金を彼は背負い込みました。

当然、12、長屋暮らし、しかも男の円堂殿は借金を払うことなど出来ませんでした。


円堂殿は借金の代わりとして身体全ての器官・臓器を売る、つまりは死ぬことになったのです。

しかし風鈴姐さんは円堂殿が死ぬくらいなら、と彼の借金を肩代わりし、自分の春を売ることを決意したのです。


それを知った彼女の両親は彼女を遊郭から買い戻そうとしました。

しかし、既に美貌に恵まれていた風鈴姐さんを稲妻屋は手放しませんでした。


それどころか、
彼女は売られてからずっと外には出させて貰えた時がありません。







でも

彼女は幸せでした。


売られた日、円堂殿は涙ながらに彼女に伝えました。



『オレが必ず助け出す。だからその時、一緒になってくれ』、と。



彼は貴方と同じように店の木格子から風鈴姐さんに逢いに来ていました。


そしていつしか彼はかの有名な雷門組に入隊し、出世を重ね、借金の半分程を貯めることが出来たのです。

それが、2ヶ月前のことでした…。



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「2ヶ月、前?割と最近だな。一体その後何が…」

不動が口を挟む。


宮は次第に涙を浮かべてきた。





「円堂殿が、お亡くなりになったのです」


「ーーっ!?」

言葉を無くした。
その、円堂が死んだ…?



風鈴の死んでいた表情を思い浮かべる。



それ、か。




佐久姫には幸次郎が居る、彼女が放ったこの言葉の本当の意味は。


「死因は……。盗賊との、やり合いで…命を…」

「………………」


さしずめ、コイツの頼みってのはもう遊女屋に近付かないで欲しい、って所か…。

円堂って奴の敵、か。




勿論、それは不動たち帝国盗賊団では無い。

彼等は悪徳な者からしか金銭を盗まず、さらには人は殺さず、が鉄則だからだ。




「姐さんは1ヶ月ほど前まで泣き狂って居ました。それはもう、痛いほどに」

「………」


「ですが、状態が回復した先にとある問題が起きました」


「…問題?」


はい、と小さく返答した。

「同じ雷門組の豪炎寺殿から姐さんは大変気に入られ、最近はずっと豪炎寺殿が稲妻屋に入り浸り姐さんを独占しています」


「じゃあオレがついてる、ってのは珍しくソイツが来なくて、風鈴の客になれたからか」

「ええ」


「でもよぉ、永久顧客が居るって悪いことかよ?むしろ喜ぶべき……」


顔を青ざめながら
首を横に振り、宮は否定した。



「相手が問題なのです。豪炎寺殿が…!」



待てよ。
豪炎寺ってまさか…

「医者の家系…の?」

「はい。彼もまた雷門組であり、医師でもあります」


だから、
何が問題なんだ…?

金持ちで言うこと無しじゃあ、ねぇか……。



つーか
じゃあ頼み事って何だよ…










必死の形相で宮は口調を変えた。
そして、強く懇願する。

「お願いします!風鈴姐さんを助け出して下さい!!」


「はぁ?」

意味が解らなすぎてつい、出てしまった。


遊郭から花魁を連れ出すなんて…自殺行為だ。
オレに死ねって言ってんのか、このアマ。


不動が腹を立てたようなのを宮は察知し、息を呑んで話した。


「姐さんには…1ヶ月前、円堂殿の死から立ち直れたのには理由があります」


不動はそっぽを向いているが聞き耳は立てていた。








「風鈴姐さんは、










腹に赤子が居るんです…」







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