♀長編

□居場所
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夕暮れ時、

1人の少年が
稲妻町を徘徊していた。

袋に入った箱を持っていたため、恐らくシューズか何かを買ったのだろう。



「(稲妻町にこんな場所があったんだな)」

彼は左側の、オレンジ色の川の風景を眺めながら帰路についている。




暫く歩いた時に不思議な光景を目にする。


「(あれは…!)」

少年は荷物を無造作に道端へ置くと目に入った物に向かって走った。



「大丈夫ですか!?」

「…!?あ、はい!」

「何だ…良かった!てっきり具合でも悪いのかと。ぐったり倒れて…、って本当に大丈夫ですか?」


少年は河川敷に倒れていた人物をゆっくりと立たせた。
フラ、と体が揺らぐ。


「やっぱり、大丈夫じゃないじゃないですか……って!お前は…!?」

「ん………?」


ふらつく人物はゆっくりと顔をあげた。


「げ、源田………!」

「風丸………!」




蒼白な顔色の、2人の少年が立ち並んだ。











「驚いたな。まさか雷門の選手が倒れてるなんて」

芝に座って源田がはにかみ笑う。
風丸はアハハ、と恥ずかしそうに笑い返した。




「というか、雷門って練習終わるの早いんだな。今6時だぞ?」


ギクリ。

「あ、あぁ。いつも、7時とか8時くらいまでやってるよ…」

「へぇ。じゃ何でお前はこんな所に?あ、因みにオレは今日休みだからスパイクを新調しに来たんだ」


穏やかな微笑みを風丸に向ける。
きっと天然な性格のだろう。
何も知らない筈なのに先ほどから彼の質問は核心をついている。


「あ、あのな……」

「?」


源田は相変わらすニコニコと笑う。

何だか━━━。


「…っく」

「??」

「あははは!」

「何だ?どうした?」

「いやっ、ごめん、何か可笑しくってさ」


帝国の、しかも
あんなしかめっ面だったGKがこんな風明るく爽やかに笑うなんて。
……なんて言うか、


「意外だな」

「んー?オレのことか?」

「ああ」

「お前も意外だったぞ?まさか雷門の仏頂面2番がそんな風に笑うなんてな」

「ぶっ…仏頂面!?」

「だっていつも難しそうな顔をしているじゃないか」

「は……は」



そりゃ…試合中は仕方無いだろう!、そう言い返そうとしたが止めた。

彼女自身、心に引っ掛かる事があったから。




「(仏頂面、か)」


最近、心から笑ったかな。
安心することなんか出来たっけ。

いや、
余裕すらない。
そんな毎日に疲れてしまったんだ。



「…どうしたんだ風丸?」

源田が風丸の小さな肩をポン、と叩く。


「あ、すまない。考え事してた」

「顔色悪いぞ?…一体どうしたんだ、相談なら乗るぞ?」



相談━━?

こいつに?
敵の、源田に?


出来るわけないよ。



だって、オレの悩みは

「(女ってことなんだから)」



相変わらず
笑うんだな、お前。

源田幸次郎。



「(出来る事なら)」


助けてくれよ。





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