疾風少女伝

□回転
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「僕は1年宮坂了です。元陸上部で、短距離でした」

「へぇ〜…って、陸上部!?」

「じゃあ風丸の後輩?」


質問を投げ掛けて来た土門を彼女はギロ、と軽く睨む。
その視線をまともに受け、申し訳ないさそうに悪ぃ、と動作を示した。



「はい!風丸さんに憧れて陸上部に入り、次はサッカー部に入ります!あ、因みに希望ポジションは勿論DFです」

スラスラと宮坂は話していく。
まるで作られたかのように。


流石の円堂も苦笑いをせざるを得ないものだった。

「わ、分かった。ディ、DFを頼むよ。とりあえず…土門、説明してきてくれ」

「あっ、あぁ…。栗松、壁山、秋も付き合ってくれ。行くぞ宮坂」

「はい!」

ニコニコと土門の後に宮坂は続き、コートへ向かった。
ピシャッ、と部室の扉が閉まった時床に崩れ落ちた人数は言うまでもない。
全員だ。



「な、なんなのあの1年…」

「風丸さん、風丸さんって……ハ、ハハ…」

松野と半田が未だ苦笑いのまま宮坂の立って居た場所を見る。

「悪い…みんな…」

風丸が顔を赤らめながら呆れたようにため息を吐く。

それは長いものだった。
一之瀬はそんな彼女の肩を叩き、ニッ、と笑いかける。

「いや、謝られる理由は無いよ。ただ彼に少し驚いただけさ!」

「そうそう」


一之瀬の意見に賛同するものも現れ、とりあえず波風が立つ様子は無いようだ。

何より新入部員が入ることは喜ばしい。
先程の自己紹介はともかく、説明から帰って来た宮坂を皆は歓迎した。

宮坂もただ純粋に笑う。
円堂、以外に。











今日は元より部活が無いので本格的な説明は明日にして、皆は家に帰った。




ただ1つ、予想外なことはあったが。









「……」

「……」

「何の用だ」


くるり、と仏頂面の男は振り返る。
振り返った先にはニコニコ笑っている女顔の彼が居た。

「いえ〜、ただ豪炎寺さんとお話したいことがありまして」

「……言ってみろ」


ピクリとまるで鉄のように固い顔の眉を少し動かす。
宮坂は未だ少し笑ったままで彼に告げた。



「他のメンバーの皆さんは風丸さんのこと知らないんですね」

「…………は」

思わず目を丸くした。
予想外過ぎる発言だった。


「僕知ってますよ?風丸さん、いえ一加さんのこと」

「…………!」

「あ、今は一郎太さんでしたっけ」


ゴクリ。
唾を飲み込む。

余りにも淡々と話す彼に少しばかりの脅威を感じたから。


「…まさか、お前、風丸を陸上部に連れ戻すために…!」

しかし宮坂は
冷めたように豪炎寺を一瞥する。

「そんなことはしません」

「じゃあ、何故だ」

「僕は風丸さんを守るためにサッカー部に入ったんですよ。彼女が望むのならばサッカーをすればいい。僕、彼女に嫌われたくは無いですから」

「………」


これは、本当に。

『守る』という言葉で纏めていいものなのだろうか。

否、違う。
これは執念。

眩しいくらい純粋な執念なのでは無いか。




「僕が彼女を支えます。……あなたよりも!」

ビシ、と指で豪炎寺を指す。
これは宣戦布告だ。


それを豪炎寺も受け取った。

「成る程。オレに近づいて来た理由は既にオレの風丸に対する気持ちを知ってたな」

「ええ」

「フン」


再び前を向いて歩き出した。
宮坂は対照的にその場に足をつけたままだ。



「負けませんよ」

「オレもな」


冷たくも熱い火花が舞い散った。
これはただの序章。


世界はまだ
周り始めたばかり。







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