♀長編

□Y
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「はぁっ、はぁ…っ」

絶え絶えに息を切らして空色の少年は身体中の痛みの処置を施して居た。
同室の若草色の少女は何やら扉を開けて叫んで居る。


「おばぁーー!!おっさん眠らせたよー!」

そう言っていると階段がカツカツ、カツカツと鳴る。


「ほぉ。じゃあ連れてくよ」

「そんな奴、さっさと連れてっちゃってよ!」

リューが頬を膨らせて風丸を見る。
その身体は赤色、青色、黒色と沢山の色に染まっていた。

「…またやられたのかい」

「アンタに縛り付けられているせいでな」

風丸はチ、と舌打ちをして老婆を睨み付けた。
精一杯の反抗心だということが見て取れる。

「ちょ、風丸……!」

「ハン。本当に可愛くない奴だね。アンタを見ていると嫌なモンを思い出すよ」


さて、と。
そう老婆は呟くと憎しい男をズルズルと引き摺り下って行く。


「(これで最後…だ)」

風丸は救われたように心の中で囁くとぐったりと眠りに落ちてしまった。

理解はしていた。
老婆に連れて行かれた男は皆2度と来なくなることを。


ただ━━
その先は知らないが。

この時はまだ純粋に老婆が脅しでもして、それで金を巻き上げてるなんて考えを風丸は抱いて居た。

自分達は『金の道具』。
そう考えて居た。


実際は『殺すための餌』だというのに………。




「…お疲れ、さま」

そんな事は知りもしないリューはそう言って彼に毛布を掛けてやった。



階段の先から老婆の声が響いた。

「リュー!」


彼女はそれに気付くと返事を返し、用件を聞く。

「ちょっと街に行って蝋燭を買ってきとくれ。切らしちまってね」


リューはそれを聞くと目をぱちくりさせた。

「(え、あたし?)」

いつもは滅多にリューに頼むことは無いのだ。
老婆はほとんどの買い物を風丸に任せて居た。

恐らく、明るく軽い性格のリューより賢い風丸の方が信頼出来るためだろう。

━━いや、
正しくは老婆に逆らえないと強く悟っているため、だろう。


「(久々の、外!)」

首に爆発装置を付けてようとも街に行けることはそれほど嬉しかったのだろう。



鎖を外され、コートを羽織るとリューは外の寒さに驚きながらも嬉しさを感じながら街へと向かって行った。

「(息、もう白いや)」


そんな中、いきなり彼女は足を止めた。

「つめたっ」

鼻の頭に白い物が付いたと思ったらスゥ、と染み込むように溶けて行った。


━━雪、だ。
もう冬なんだ……。


再び足を前に運んで彼女は街へと向かった。























薄暗い灯りが外を照らす。

寂れた古い集合団地の中、ふと窓の外に視線を移すとはらはらと白い粒が空から降り落ちていた。


「雪だ……」

赤毛の知的な面立ちの少年は瞳にその幻想的な情景を映して、小さく呟く。


「げ。マジかよ!これ以上寒くなるのは勘弁だっつの…」

同じく赤毛の活発そうな少年が厚着をしつつ、暖炉に薪をくべる。

「身体の鍛え方が足りないんだよ、晴矢は」

物静かそうな浅蒼毛の少年はカチャカチャと机の食器を片付けながら言った。


その発言にピク、と晴矢は反応した。

「あ?オレより細っちい身体して何言ってんだ風介」
冷静そうに見えた少年、風介は口角をひくつかせながら手を止める。

「…私に対する侮辱か?」

「おお?やんのか?」


「2人とも止めなって」

はぁ、とため息を吐いてヒロトが2人の喧嘩を仲裁した。
2人は互いに舌打ちをしてプイッと顔を反らした。


「もー。本当晴矢も風介も子供なんだから。あんなに雪、綺麗なんだからさ」

「あんなの寒いだけだっつの」

「道も凍るし歩きづらくなるし、メリットは無いね」

「夢が無いなぁ」


再びヒロトは窓に視線を変えて、ついでに近づいて覗き込むように景色を見渡した。

そこで雪以外の物に目を捕らわれることになる。


「クリスマス、ツリー…」

通りの真ん中にあるモミの木に色とりどりのオーナメントやリボン、小さなお菓子や電飾が飾られている。

ライトアップされていて何色かに光って、雪の白が映え余計綺麗だった。



━━アレは近くで見る価値ありだよね!

ヒロトは早速防寒着を身に付け、外へ出ようとする。

「何処行くんだよ?」

晴矢の問い掛けにヒロトは

「通りのクリスマスツリーが余りにも綺麗だから近くで見て来ようと思って。2人も行く?」

晴矢と風介は「パス」と口を揃えて言うと暖炉の前から動かなくなってしまった。


もう、と呟きながらヒロトはドアを引いて通りのツリーの元へ走った。





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