♀長編

□壱
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月明かりが暗い夜道に射し込む、幻想的な夜だった。




「であえ、であえ!」

「また帝国盗賊団が現れたぞ!道を塞げ!!」


時代の治安を守る雷門組が江戸の街を捜索していた。

帝国盗賊団を探し出すために。






「バーカ。道だけが通れると思うなよ」

雷門組を嘲る男が居た。

ガポ、と大きな風呂敷に包まれた荷物を持って、澄んだ川を泳いでいく。


浮かび上がってたどり着いた先にはたくさんの人間が彼を出迎えた。



「お帰り、不動!大丈夫だったか?」

「今日は雷門組、行動が早くて焦りましたね…」

「頭領が無事かずっと心配してましたよ〜!」


歓喜の声を挙げる者達に持ってきた荷物を渡す。

大漁だ、大漁だと
はしゃぎ回って先にある大きな小屋に運んで行く。



フゥ…と息を漏らすと
後ろからポン、と叩かれた。

「お疲れ様、不動。お前のお陰で全員逃げれたよ」

優しく強い声の持ち主は源田━━不動が率いる盗賊団の人間だ。



「フン、別に大したことじゃねぇよ……」

濡れた衣服を絞りながらぶっきらぼうに不動は答えた。

全く、と源田は首を傾げるがあることを不動に提案する。


「なぁ、遊郭に行かないか?」

「はぁ?…オレ、パス。あんな生気のしねぇ女抱いたって………」

いいからいいから、と強制的に源田は不動を連れていく。
後ろから有志も一緒に。













「で、ここかよ」

源田が連れて来た店は
『稲妻屋』と印されている。


「ここ、小見世じゃねぇか。んな所ブスしか居ねぇよ…」

不動が言い終える前に源田はまたも強制的に連れて行く。









「幸次郎!」

店に入ってすぐ出迎えたのは右目を包帯で隠している、綺麗な女。



一瞬、何でこんな美人な女がこんな小見世に、と思ったが成る程、傷物か。と不動は理解した。



その遊女に案内され、一番上の大きな間に腰を下ろした。

そこの間には4ヵ所、襖があった。

その先が何の部屋なのかは不動でも容易に想像出来た。


4、5人遊女が入ってくる。
不動達は6人で来たため、遊女が足りない。


「人数足らなくないっスか?」

成神がそう告げた途端…




カラカラカラ。



「皆さん、お出でくださいましてありがとうございます」


賑やかだった空気が
一瞬にして変わる。

まるで、
芸術品を見るが如く静かに。



入って来た遊女は
ゆっくりと顔を挙げる。

「……風鈴でございます」


チリン。

風の音が聞こえる。


遊女は切れ長の大きな瞳をしていて、空色の美しく長い髪を持っていた。




流石の不動の性格でも
見入ってしまう。



風鈴はおしとやかに不動の隣に座った。


「風鈴姐さんはこの稲妻屋の太夫なんですよ」

金色の髪をした可憐な少女が薄く笑いながら述べる。


「風鈴と逢えるなんてついてるよ、旦那達。風鈴は1日1回しか客を取らないから。いつもは……」

右目に包帯をした遊女が何かを言おうとしたら金髪の遊女が「しっ」と止める。



風鈴は
ただ黙って座って居た。



不動は
未だ彼女から目を離せずに居た。

何か遠いものを見るかの様に。







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