♂♀長編
□參
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数ヶ月して
源田が佐久姫を買い戻す時がやってきた。
「佐久姫姐さん、お元気で」
「じゃあね、佐久姫…」
見送りに、稲妻屋の前で宮と風鈴が立っていた。
「風鈴、宮!遊びに行くからな、またな!」
佐久姫が振り返り、駆け寄る先には源田が居た。
「幸次郎、…ありがとな」
「いいや…遅くなって悪かった」
「ううん、嬉しいよ。幸次郎、ありがとう、愛してる」
「オレも」
2人は触れるだけの簡易な口付けを交わす。
「いやー、あっついですね」
「そうだな」
宮と風鈴が2人が去っていくのを確認し、話始めた。
「…佐久姫姐さんは自分を救ってくれる、王子様がおりました。でも、私は…」
しゅんとする宮に風鈴はコラコラ、と宥める。
「王子様なんて来ないのが当たり前だ。お伽噺話の世界だけさ」
「何言ってるんですか!アナタには不動殿が居られます!…だから手遅れになる前に………!」
宮の絶叫に対し、風鈴は酷く冷静だった。
「…迷惑、かける訳にはいかないよ。今、あきに言った所で何も変わりはしない」
「姐さん……」
夕刻のこと。
「あき!」
「おっ、いち。いきなり飛びつくんじゃねぇよ」
「嬉しいんだ!最近はあきだけの『女』で居てられるから」
「ばー…か」
雷門組の豪炎寺━━。
彼は『あの事件』からぷっつりと稲妻屋へ通うのを止めた。
流石に子を殺した事で行きづらくなったのであろう。
だから太夫の風鈴は
1日1回の客はほぼ不動となっているのだ。
だが不動は1回たりとも彼女を抱くことは無かった。
「なぁ、あき」
「んだよ」
不動に背中を押し付ける形で座っていた風鈴が問いかける。
2人の手は繋がっていた。
「どうして私を抱かない?」
突然、俗な話をされて不動は面食らった。
「ば……!バカかお前!いきなりそんな事聞くな!」
「だって、私は遊女、花魁だ。お前のがバカだ」
はぁ〜、と不動はため息をついた。
「ホント、バカ女」
「なっ………!?」
風鈴の紅のかんざしがついた頭をクシャ、と撫でる。
「お前はオレにとって遊女じゃない。…だからこんな遊郭でお前を抱かない」
「フーン。よく解んないや」
「な、お前……!」
アハハッ、と風鈴は笑い
「解ってるよ」
とにこやかに言う。
このやろう、と不動が風鈴を叩く。
そして痛いな!、と風鈴は怒る。
こんな時間がずっと続け。
2人は願っていた。
それくらい強く
ずっと手を握っていた。
大好きだ、と
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