♂♀長編
□死
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ドタドタドタ
隠れ家の簡易な階段を勢いよく登る音が明朝に響き渡る。
「なっ、なんだ?来襲か?」
「ぜ、全員起きろー!!」
ガララッ!
「頭領!!どういう……」
「なんだ、つぎかよ…」
つぎが物凄い勢いで
寝床へ入ってきたのだ。
「幸、次郎ッ……頭領、どこ!?」
幸次郎を睨み見て、辺りを一瞥していた。
源田は落ち着いて、
「不動は昨夜から帰って来て無いぞ?どうしたんだよつぎ」
「風鈴が…豪炎寺殿の御家に引き取られたそうなんだよ…!さっき、宮がこっそり知らせに来てくれたんだ……!」
寝惚けた団員たちが
どよめく。
「風鈴って…頭領と出来てる稲妻屋の遊女っスよね?豪炎寺家とはまた…」
「逆に幸せじゃねぇ?」
「そーそー」
団員達が発言していく中、つぎは手を震わせ、
「お前ら!かっ……」
「勝手なことを言うな!」
源田が血管を浮きだたせる。
源田は優しい男で、人の気持ちを考えられる人間なのだ。
そんな源田が
軽はずみな罵詈雑言を言う団員たちを許せる筈が無い。
「…もし、不動が豪炎寺の屋敷にでも向かっていたら………!」
源田は寝間着のまま外へと飛び出して行った。
「幸次郎っ!あたしも行くよ!」
続いて、つぎも。
怒る源田など初めて見た団員達は呆気にとられた。
━━不動、無事で居てくれ!
祈りながら、走った。
「いっちまったな…」
「源田があそこまでキレるなんてな。不動は一体どうしちまったんだ。……ん?なんか不動の枕元に…」
辺見は落ちていた紙を拾う。
「こ、これって…」
「離縁状…!?」
「不動サン…ッ!?」
立ち尽くす、団員達の姿が朝日に照らされた。
カ…コンッ。
豪勢な庭にある池の鹿威しが鳴る。
それを背景した、空色の麗しき女が居た。
愛想の無い、女が。
「風鈴。どうだ?あんな小さい小屋では羽根が伸ばせ無かったろう?ゆっくり休むといい。…ここはもう、お前の家だからな」
「有り難う、ございます」
顔は笑っていた。
偽りの顔が。
そんな彼女に気付かず、嬉しそうにウキウキと話かける男は皆の言う、豪炎寺だった。
「そうだ、風鈴。欲しい物とかあったら言えよ。何でも直ぐに用意してやる」
風鈴は気付かれないように小さく、鼻で笑った。
━━何でも?
バカじゃないか。
じゃあ今すぐあきを連れてきてくれ。
私はそれ以外何も要らない。
しかしそんなこと言える筈も無い。「有り難うございます」と、同じ言葉を返した。
一瞬、豪炎寺は煙たい表情をしたものの、
「…まぁ今日来たばかりで疲れたろう。しかと、休め……」
と、優しく返した。
愛しき者を見る目で。
豪炎寺は部屋を出ていった。
ああ、知ってるよ。
お前が私を好きな事くらい。
でも私は一生お前を
好きにはなれない。
すまない。
『風鈴』としてお前を好きになる努力をするよ。
『風丸いち』は生涯2人の男のみを愛した、もう死んだ存在だからさ。
朝だと言うのに、日の当たらない場所だ。
不動は1人、
薄暗い林道を歩っていた。
道中にはいくつか罠が仕掛けてある。
道の先にはそれだけ大切な物があるのだろうか。
しかし盗賊の頭領となる不動には軽く避けられる。
そう、不動は宝を盗みに来ていたのだ。
「こんなに大量に罠散らして、まるで来てくださいって言ってるもんじゃねぇか」
━━━!!
殺気!?
「誰だァ!?」
ガサ、と叢から物音が聞こえる。中からは4人の人影が映りでた。
「ほぅ。お見事」
「よく気付いた物だ。お主もそうとう出来ると見た」
4人の手練れはそれぞれ刀に手をかけた。
不動は絶体絶命な筈であるのに小さく笑っていた。
「今のオレに失うものはねぇ。第一、命より大切なモンを2つ、手放して今期限が悪ぃんだ。……手加減しねぇぞぉぉっ!!」
両の袖から短刀がはだけた。
そして、1人の豹は4人の手練れへと牙を向けた。
"失う物は何もない"
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