♀長編

□3日め
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3日目・金曜日(雨)



「いやぁ〜!良くなってよかった、よかった」

綱海が体温計をみる。
36,4℃、平熱だ。


「にーにが優しかったから」

「そっか!」


にーにが
頭をくしゃっ!と撫でる。
きっと癖みたいな物だろう。


「でもなぁ…今日は雨だし、何すっかな。海は温度が低いからな、何したい?」


うーん…と風丸が悩む。

辺りを見渡すと置物のシーサーやサーフボードが目に入る。

改めてここは沖縄だと認識した。
何か閃いたように口を開く。


「そうだ、にーに、料理教えてよ!それに民芸品とか作ってみたい!」

「おぅ!いいぜぇ〜」

「でさ、晴れたらサーフィン教えてくれよっ!オレも円堂みたいに習いたい!」

「オレは厳しいぜぇ」

「どんと来いっ」



きゃぴきゃぴしながら2人は布団から起き上がった。






「そーだな〜。万人受けする沖縄料理はサーターアンダギーかな、朝飯食ったら作っぞ!」

「やった!」



ウキウキしながら風丸は綱海が朝食を作っているのをみた。



━━器用だなぁ。

魚をスパッと捌くし、
フライパンを2つ同時に操るし。
凄いな。



風丸のじーっ、と見る視線に気付いた様で綱海はニコーッと笑う。

彼女は気付かなかった。
そのお気楽そうな笑顔に自分が救われていることに。

自分が明るくなり始め……
━━否、元に戻りつつあることに、気付かなかった。


















「おら!出来たぞ」


メニューは
鮭入りスクランブルエッグ、フレンチトースト、サラダ、牛乳。


「つ、綱海にーに…」

「綱海は要らねぇぞ!何だ」

「あ、いや、うん。にーにって洋食作れるんだ。和食ってイメージしか無いからさ」


ハハッ!と綱海がにやけて「お前もな」と風丸の頭をポンポン叩いた。

口では怒りながらも彼女は口角を緩ませていた。





お兄ちゃん、ってこんな感じなのかな。


………にーに!



















サーターアンダギー作りに励んでいる時のこと。

突然風丸が手を止めた。


「あ……」

小麦粉まみれな睫毛を上へと上げる。


「ん?どーした、風丸!」

風丸が小麦粉をぶちまけた机を拭きながら綱海が問いかける。


「虹…………」

そう言って空を見ながら彼女は微笑んだ。



いつの間にか雨は止んでいた。
代わりに大きな虹が窓から見える小さな風景に現れた。



綱海は虹の七色の美しさよりも、身近の澄んだ空色を眺めていた。




「綺麗だな」

「……ああ」


「東京のより、ずっとずっと綺麗だ。何でかな?」

「空が青く澄んでるからじゃねぇかなぁ」

「そっか」


クス、と笑って再び作業へと戻る。


2人とも。








お前も東京に居た頃より、
澄んできたぜ。



良かったな!

風丸っ!









綱海が彼女に抱くのは
『妹』という親近。


大切にしたい、と
守らなきゃな、と
救わなければ。


今彼を支配しているのは
それだけの感情だった。




それだけだと、思っていた。






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