♀長編

□6日め
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6日目・月曜日(雲り後晴れ)



あれから風丸は
泣き疲れて寝てしまった。

もう8時だと言うのに起きない。


綱海は何もすることなく、
ただ風丸の手を握りしめているだけだ。
食事すら忘れて。


時折、手が震える。

このまま彼女を救えないのか?
このまま起きなかったら……。

邪念が立ち込める。


くよくよしたことが嫌いな彼も心配なのだ。




「風丸………」



パタ、と手を繋いだまま力無くそれは倒れる。


綱海も、徹夜の看病の疲れのためかつい眠りかけてしまった。









再び目を開けた時、視界はガラリと変わっていた。


「っんだぁ?ここ…」


『なぁ、お前』

「ん?風丸か!おい、もう大丈夫な…」

『ああ、オレだ、風丸だ』


ピクリと反応する。

違う。
コイツは。
………風丸じゃねぇ。

この声は風丸だ。
でも…なんつーか…声が、痛ぇ…。


『よくも邪魔してくれたな』

「なんのことだよ?」

『もう少しで本当のオレになれたのに』

「はぁ〜?」


ぼう…と視野に広がる暗闇に薄暗い、奇妙な光が見えた。
その光に照らされているのは紛れもない、風丸だった。

「…!かぜ、まる?」

『お前達が現れたから』


そう言いきる彼女の瞳は氷のように。
綱海は何事か、と黙って聞いた。



『お前達…お前や、吹雪や、塔子……。お前等が居なかったらここまで、ならなかったんだ。お前等の所為で!!』

手がワナワナ震えだす。


「ちょ、ちょっと待てって!オレ、んな事言われてもよぉ。お前が離脱してから入ったんだぜ?」

『知ってるよ。でもお前も憎いに過ぎない。お前はたった1日足らずで才能を見せ付けたんだ。…オレとの違いを見せつけるかのように!!』


瞳孔が開く。
息が乱れる。
握りしめてる彼女の手は血で滲む。


「お前だってサッカー始めて3、4ヵ月なんだろ?それにサッカーはお前の方が全然上手いし…」

『バカにするなぁぁ!!』


綱海は言葉を無くした。
あれは本当に風丸か
あれは本当に彼女か。

いずれにせよ……

『お前に何が分かる?オレは1人でずっと苦しんできた!辛い努力も噛み締めて来た!でも人間には限界があるんだ!オレは強くなれない!所詮女はここで終わりか?塔子の存在に吹雪の存在!オレの存在理由は無くなったんだよ!!』




ああ。
分かった。

こいつ………

「お前、あの時の風丸か」

『ハハッ!…別にそう言う呼び方でもいいけどな。オレが風丸であることには変わり無い』

「でも、少し違うな」

『……は』

「お前は〜…そうだな、風丸の別人格、ってところだな!」


『…お前、頭に来る奴だよな』

「女なのにさっきから口悪ぃぞ〜」

『ほら。差別』

「はい?」


予想外の発言に綱海は聞き返す。


そこで、1つの変化に気が付く。




「泣いて、んのか」

『オレは弱いんだ。だからもう誰にも必要とはされない。…オレ自身にさえも』

「風丸……」


ツー……、と両目から頬に涙が伝う。

ゆっくり、ゆっくり。


『すまない。誰かに最後の怒りをぶつけたかったんだ。もう風丸の中でオレは消えつつある。オレは消えるからさ』



これが、風丸の闇。

コイツの存在じゃなくて、
誰かに苦しみを分かってもらうこと。

感情を食い殺していたこと。
それが、闇か。



『なぁ綱海』

「なんだよ…」


風丸の抱えてきた闇を感じてしまった綱海は目の奥が熱くなる。

必死にそれを堪えた。


『オレのことを頼むよ』

「ああ。…お前もな」


彼は毒気の無くなった彼女を自分の胸に抱き寄せた。

一気に彼女は体を震わせ泣き崩れようとしていた。


『ごめん…ごめんなさい…にーにぃ…!』

「お前もそう呼んでくれたか!やっと」

『誰にもっ、必要とされなくなって、さ、寂しかった、んだっ…!』

「分かってるぜ」

『にーに…っ』

「お前も、オレの大切な風丸だから。別々なんかじゃねぇよ?元々、1人の風丸なんだからよ」

『……っ』

「お前は消えるんじゃなくて、戻るんだろ!」



温かい雫が自分の肩にかかるのを彼女は感じた。

泣いているのか…にーに…?
オレの、ために?




「お前はオレが必要としてやる」

























「にーに?にーに!」

「はっ!!」


風丸が寝ているベッドに上半身を置いて寝てしまっていたようだ。

辺りはすっかり、オレンジ色。
夕焼けだ。

「そうだ!もう大丈夫なのか?」

「うん。なんか、前よりスッキリする」

「そっか!」

ニッ!と綱海は笑う。
太陽みたいに眩しく。





「あ、待って!にーに!」

立ちあがった綱海を風丸が呼びとめる。

「ん〜?なんだ?」


目の前にまで来た綱海に彼女はぎゅ…と全身をかけて掴まる。

「なっ?なんだ風丸っ!?」

少し照れながら綱海は返事をすると言うのに、風丸は彼の倍以上、顔を赤くして



「にーに、大好き」

と言った。


呆気に取られたものの、綱海はニコ…と優しく微笑む。


「オレも」



窓から射し込む夕焼けの暖かい光は
2つの重なった影を作り出した。






勝気な少女には
年上の包容力。


…正しいかも、知れない。


2人の暖かいキスは暫く、続いた。








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