♀長編

□始動
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「サッカー部入部者募集中ー!皆で帝国に勝とうぜー!」



何やら今日は校内が騒がしい。
何事だろう、そう思ってみたら幼なじみが大きな看板を背負ってそこら中を歩き回っていた。


「何してるんだ?」

幼なじみに向かって聞く。
彼は直ぐに反応した。


「風丸!」


「へぇ〜。帝国って、あのサッカーの名門の?凄いじゃん」

看板をじっ、と見ながら風丸は円堂に微笑みかけた。


しかし彼の表情は
思わしくなかった。

「いやぁ〜…でも部員足りなくてさ」


「そうか…………」

「風丸が男だったらなぁ」

「え?」



不意に彼の口から出た言葉。

風丸と円堂は小学校の時一緒によくサッカーをしていた。
そのため、中々サッカーは上手いのだ。

それでこんな言葉が出たのだろう。



「あ、ごめんごめん。気にしないでくれよな!じゃあっ!」

「あ……ああ」


━━オレも、そう思うよ。



小さく笑って呟いた。
その笑みは少し辛そうに。













オレは女らしく無い。
可愛く無いんだ。

自慢の足だって
女子じゃ相手にならない。
男並みにオレは速いから。

それに
オレ女子と話しても楽しく無いからいっつも1人。

女子もオレが嫌いだろうし。


つまらない。
男だったら難なく円堂と話せるのにな。





だからさ
『女』の自分が嫌いだ。


出来ることなら男になってお前を助けてやりたいよ。










「風丸さん!」

「!…なんだ、宮坂か」


同じ陸上部の後輩、宮坂。


彼は風丸を非常に慕っていて、また彼女を目標にしている。


「風丸さん!今日は200のタイム競う約束じゃ無かったですか〜」

「あ、ごめんごめん。今嵐が過ぎ去った所で忘れてたよ」

「もう!さっ、行きましょ」

「分かったって」


宮坂は風丸の手をグイグイ引っ張って陸上トラックに連れて行こうとする。


宮坂は風丸が女であることをきっと知らない。

まず、学年が違うし
彼女は着替えを校内で済ませ、胸を潰すから。
(走るために)



それ以前に
恐らく陸上部全員知らない。

全員風丸とクラスは別で彼女の制服姿を知らないため。
大会も自由登録で、
風丸は大会に出ないため。


彼女自身、隠して居るのかも知れない。
唯一の彼女の学校に来る意義は部活動で、今の関係を崩したく無いがために。










━━宮坂。

オレを目標にしても
先は無いんだ…………。













ごめんな。

円堂…宮坂……。




オレ、バカだから。


どうかまだこのままで居させて欲しいんだ。











葛藤が巡るめく人生。



プロローグは既に開かれた。






『疾風少女』






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