♀長編

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痛みでじんじん痺れる。
腹が、脚が、体が。




「痛っ……」

「ほら風丸くん。ちゃんと消毒しないと」

「あ、ああ。ありがとう木野」



帝国との試合でオレは鬼道のシュートをまともに喰らい、お陰で大分負傷した。

それを木野が手当てしてくれてる。


多分、男だったら惚れてるな。




「風丸くん?」

「!あ、ああ!ありがとう。それじゃあ」

「はーい」



どうも女子って苦手だな。
何話していいのか分かんないし、そもそもオレはクラスの女子から嫌われてたし……。



風丸がモヤモヤした感情を抱え、小走りに皆が居るグラウンドへ戻ろうとしていた。

そのため、ちゃんと前を見て走っては居なくて……





ドカ!






「痛ぁ!」

「…っ」


校舎の外周角で誰かとぶつかってしまった。


「(やばっ!)あ…あのっ、すいません!大丈夫ですか?」

「ああ」


ぶつかった相手は何事も無かった様にスクッと立ち上がる。

風丸はその人物に覚えがあった。



「ご…豪炎寺だったのか。良かった…」


知らない人にぶつかるよりは目付きの悪い知人にぶつかった方がまだ救われる。

「良くないだろ」

そう言って彼は小さく笑う。




「…………」

彼女は言葉を無くした。





あれ、コイツ。
こんな顔、するんだ。
意外だな。

ちょ、ちょっと……。





なんて頭が真っ白になってると豪炎寺が頭をコツンと叩いた。


「オイ、どうしたんだよ。…それはそうと、さっきのDF気合い入ってたぜ」


ハッと我に返り、

「あ、ありがとう!」

とこちらも笑みで返事をする。



「あのさ」

「ん?何だ?」

「お前はサッカー、これからもやるのか?」

「………!」


思いもしなかった質問をぶつけられ、再び言葉を無くしてしまった。



「(サッカー………)」


続けられる訳、無いじゃん。


「お前は?」

無表情で風丸は質問で返した。

豪炎寺はそんな風丸の心境を見切ったのか、クックッ、と嘲り笑う。


「オレはサッカーを捨てたんだ。……でもそれは間違いかも知れない」

「なんで?」

「サッカーをしているオレを妹は好きだったからさ」

「…妹さん、どうしたんだ」

「オレの試合を見に来ようとして事故に遭って…今、入院中だよ」

「そうか……お大事にな」

「ああ。…で、お前の答えは?」



ギクリ。
てっきりもう逃げられると思っていたが、甘かったようだ。



「いや…あ、あの……その」

曖昧な言葉で濁らせることしか出来ない。


何故ならば
彼女に『迷い』が生じたため。



陸上部では偽りの自分を装うがために、大会に出て成績を残すことは無かった。
陸上とは男女を完全区分するスポーツだから。


しかしサッカーはどうだろう。

男子専用のスポーツだ。
まさか女子が居るなんて思わないだろうから、大会登録に性別を書く必要は無い。



一世一代の、チャンスかも知れないのだ。

自分の脚を生かす。





しかし陸上部の仲間を、裏切ることが出来る筈が無い。
宮坂も。



だからこそ迷って居た。












「オレは………」

「ああ、そうだ。お前何て言うんだっけ。まだ転校したてで名前とか、分からなくてな」


急に豪炎寺が話を反らした。

聞いてはいけないと感じたためだろうか。

風丸は肩を下ろし、ホッとしながらハハ…と笑う。


「オレは風丸一郎太。2年だから同い年だ、よろしく」


スッと手を差し伸べた。

豪炎寺は意外にもその手を軽く握った。


多分断られるな、と予想していた風丸は少し驚いた。




次の瞬間、更なる予想外が起きるのだが。





「よろしく、一加」


「!!!??」





今度ばかりは
言葉を無くすとも言い難い、発言だった。




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