♀長編

□U
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いつもと変わらない朝が来た。

雀が楽しそうにそれぞれのハーモニーを奏で、
朝陽が窓(もどき)から射し込む。

そして、あたしは起きる。


もう慣れた、飽きた。

そんなあたしの唯一の楽しみは……快楽だけだ。


皆あたしを痴女とか言って蔑むだろう?
でもあたしにはそれしか無いんだ。



「(最近は男すら、来ないけど)」


この前の男が来なくなって━━来れなく、なってからもう7日だ。
7日も快楽を感じて無い。



身体が欲している。
人肌を、身体を、男を。


ああ
退屈、

ああ
寒い。



窓をジッと眺める。


声が綺麗ならば
歌うことが出来たろう。

でもあたしの声は低いから。

こうして自分の顔を外へ乗り出すしか無いんだ。















「あ」


外の景色を思わず2度見してしまう。

彼女の瞳には1人の男が映ったからだ。



川で何かをしていた。

よくよく見ると、
かなりの上玉。


身体は大きく逞しく、更には非常に男前。



佐久乃の目が鋭く光った。






「お兄さん!」

男性はその声に反応して、何処からかと周囲をチラチラ見る。


「こっち、上です」


男性は声の持ち主の姿を見つけ、太陽の光が眩しそうにそちらを見た。



「何してるんだ?」


声も、低くて透き通る…。
素敵。
絶対逃がさない。


「いえ。これから貴方を部屋に招待しようかと考えています」

ニッコリ微笑んだ。


男は女の居る長い家に近付いて来て「へぇ」と笑う。



「生憎だけど、そのロープからここまで登って来てくれません?」

「いや、折角だけど今日は多忙なんだ。お嬢さん」



なんだ……。
釣れない、な。


「そうですか…。でも是非貴方と話してみたいわ。忙しく無い時にまた、来てください」

「ああ、そうさせてもらうよ。オレも君みたいな美人の誘いを断るのは辛いから」


「ありがとう。私は佐久乃です。貴方は?」

「幸次郎だよ。じゃあな」



そう言うと男は賑やかな村の方へ帰って行った。


佐久乃はうっすら笑う。





━━幸次、郎。




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