♂♀長編
□日課
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「なあなあ、サッカー部が帝国に勝ってフットボールフロンティアに出場するんだってよ」
「知ってる〜。まさかあの弱小サッカー部がねぇ」
「ほんと、ほんと」
教室の窓際で男子が3、4人群がって会話をしていた。
当然、彼女の耳にもその話し声達は届いている。
「(凄い。今や学校中サッカー部の話題で持ちきりだ)」
どこか後ろめたく、こそばゆい気持ちだった物の、悪い気はしない。
にやにやと口角が緩む。
「でさ、風丸って奴いるじゃん」
ギクリ。
自分に問われた言葉では無いが反応してしまう。
何故ならば
サッカー部の『風丸』は他でも無い、自分なのだから。
規則違反……と言うか前代未聞の事件だ。
女が、選手なんて。
風丸は机に顔を伏せ、然り気無く会話に聞き耳を立てる。
「ああ。あの女子に人気がある髪の長い奴な」
「そうそう。それでさあ、前女子が差し入れ持ってったらしいんだよ」
「イケメンって得だな」
「女みたいな奴なのにな」
「違う違う。そうじゃなくて、クラスが分かんないらしいんだよ」
「えー?2年だろ?隣のクラスの円堂と仲良いっぽいし」
「半田とか染岡とかな」
「あっ。そうか」
風丸はタラリと冷や汗を流す。
━━嫌な予感がしてきた…
「おーい、半田!染岡!」
窓際の男子達は、黒板際に居る2人を呼んだ。
気付いた2人は「何だ?」とテコテコ呼ばれた場所へ行く。
「何?」
半田が口を開くと元々その場に居た男子が面白そうに彼等に問いかけた。
「サッカー部の風丸ってさぁ、どこのクラス?」
半田と染岡は目を合わせて同時に固まってしまった。
「……えー?」
「風丸ー…?」
当たり前の反応だ。
2人も、『彼』の正体を知らないのだから。
知っているのは
円堂、豪炎寺、
そして本人である、風丸のみ。
「え、お前等も知らないの?」
「そういやぁ…そうだな」
「ダメじゃん」
「だって雷門マンモス校じゃん。2年だけで15クラスあるんだぜ?」
「いや、普通同じ部活の奴は知ってるだろ」
「……確かに。でもいつも昼は一緒だぜ?」
「変なの」
「別にいいじゃねーか、そんなもん。教えたら教えたで風丸が大変になるだろ」
染岡はそう言うと、席に座った。
数名の男子と半田は「ちぇ」と残念そうな顔をして、彼等もまた自身の席へと戻る。
「(そ、)」
染岡ァァァ!!
なんて良い奴なんだ!
最高だよ、お前!
風丸は安堵の笑みで彼にかつて無いほど、感謝した。
「(顔老けてるだけじゃなくて、心まで大人なんてな)」
フフフ。
あいつにジュースでも奢ってやらなきゃな。
キーンコーン
カーンコーン………
先程の休み時間からは何も起こる無く、いつの間にか午前中の授業も終わっていた。
風丸はそれに気づくと机にかかっている鞄を持ちだし、屋上へ走った。
彼女の日課 その1。
『お昼休み』
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