♂♀長編
□V
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血の匂いがする。
この、鼻を突くような匂いは今までに無いくらい酷い。
老婆が誰かを殺したんだ。
おかしい。
あたし最近男に睡眠薬飲ませて無いぜ?
一体…どうやって……。
あれ、扉が開いてる。
…降りてみよう。
ペタペタと素足でコンクリートか何か冷たい石の階段を下る。
螺旋状の長い階段は壁に不気味に燃える蝋燭が灯っていた。
やがて、眩しい光が道の先に見えた。
「ばばあ、何し……」
「おや佐久乃…今日もご苦労だったねぇ。コイツで10人、やっと2桁だよ」
「………は?」
あたし誰も眠らせてなんか……
チラ、と老婆の手元を見る。
まだ綺麗な赤い血が付着した出刃包丁をしっかり握っている。
初めて知った男の殺し方にゾッと血の気が引く。
一体誰を?そう思って老婆の後ろに居る男を見る。
男は木製のテーブルに仰向けになって━━……。
「!?」
彼女は大きく目を開いた。
言葉も出なかった。
首が無い。
首が無い。
頭が無い!!
体つきの良い男は顔が無い、首が無い。
身体中血だらけ。
傷だらけ。
グロテスクにも程がある殺し方だ。
内臓が抉られ、爪は全て剥がされ、陰部は削ぎ落とされている。
最早人の形では無い。
ただの肉塊と化していた。
佐久乃は吐き気を催し、床に伏せたら『頭』があった。
彼女は男の顔と目が合う。
瞬間、彼女は固まる。
そして叫んだ。
「幸次郎ォォォォ!!!」
「はぁっ!!」
ガバッと勢い良く起き上がる。
身体は汗でぐっしょり濡れて居た。
━━夢か……!
酷い夢だった。
恐ろしくて妙にリアルだ。
…………。
あたしが、殺したのか?
10人目?
次は幸次郎を、
あたしが、殺すのか?
そんな、嘘だ、そうだ!
アレは夢なんだ。
ただの夢!!
━━本当に?
!!
まただ。
またあたしの頭ん中に誰かが囁いて来る。
畜生!
しつこいな!
━━本当にただの夢かな?
当たり前だ!
━━正夢じゃない?
違うつってんだろ!
━━へぇ。
……なんだよ。
━━嘘つきだねお前。
………!!
━━お前は思ってる。このままじゃ幸次郎が危ないと。そうだろう?
……るせぇ…!
━━本当は知ってるんだろう?
何を、だよ…
━━このままの関係だといつか自分は幸次郎に抱かれて、最終的にはアイツも今までの男達の様に…
「うるせぇっっ!!!」
はぁ、はぁと息を切らす。
声を張り上げたら頭の中の囁きは消えた。
彼女は、少し泣いていた。
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