♀長編

□W
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ころさなきゃ しぬ
ころさなきゃ しぬ

ころさなきゃ
あきお ころさなきゃ



脳の中をぐるぐるぐるぐる巡るめく片言のフレーズ。


骨砕音
不協和音
鎮魂歌。

激しく揺れる主題も、
全ての休止符は『終わり』で彩られる。


今の彼女の周りを奏でる
3つの
休止符。

そのくらい『死』に直面することはまともな思考を閉ざす程恐ろしい。


陽が沈み夜が明け朝になる。


彼女は変わらない。
相変わらず死んだ目。
光を浴びることは無い。




「(あたしはあたしはあたしは)」

しにたくない

めのまえの しあわせ を
てにいれるまで
あと すこしなんだ

あたしはわるくない
あたしはかわいそう




ブツブツ小さく呟く。
誰にも何にも
聞こえないくらいの声量で。


やがて、
何処からか響く声が聞こえた。
まるで深い深い井戸の中から発しているような声。



━━1人、また1人。



1番目はいつも寂しそうに川を眺めていた青年。

2番目は家族のために森に果実を採りに来ていた少年。

3番目は妻が病死したらしく元気の無かった30代の神父。

4番目は他国から旅行に来たと言う名のある領主。

5番目は恋人に振られた珍しくも美少年。

6番目は妻と別れてまで佐久乃と一緒になろうとした20代の街人。

7番目は死ぬことを悟り、佐久乃の片目を潰した剣士。

8番目は消えていく男の噂を聞き付け調べに来た警察官。

9番目は妻子持ちの気の良さそうな農村夫。


10番目は━━
友人思いのぶっきら棒で口の悪い少年。


━━アハハ!!
━━アハハハハッ!!
━━キャハハハッッ!!


深い井戸から響く轟く声は不気味にもこだましていった。



彼女は未だ、狂乱したまま。










コツ、コツ。

コツコツコツコツ。



「……!」


そんな中、明王は塔の外壁を登ってきていた。


ころすんだ、
あいつを

ころすんだ!




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