♀長編

□Y
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肌に突き刺さるような寒さが厳しい日のことだった。

クリスマス間近の街には珍しく人もまばら。
勿論、それは貧困層を除く。


そんな中、街の入り口に人の影があった。
長いコートを着た20代くらいの若男だった。

男は街には似つかわしく無いような格好であったが、綺麗な顔立ちをしている。



ゆっくり、ゆっくり
街へと向かって居た。


















「…………」

怖い、怖い、怖い。
リューは1人クローゼットの中に居た。

嬌声、悲鳴が聞こえる部屋から姿を隠すように。



ボコッ!!

「……っ!」

鈍い音。
それがする度に彼女は震えた。
何故ならそれは骨が軋む音。
風丸が殴られている音だから。



「っとに君は可愛いなぁ」

「…っ、か、はっ…!」

歪んだ狂愛は彼の口から赤い液体を吐かせ、床を染め上げる。

「可愛い、可愛い」

そう相手の男は彼を抱きながら顔、腹、胸、太腿などを拳で殴った。
この時代には珍しくも無いグロテスク思考を好んだ男の性欲。

今の風丸の常連客だ。

今すぐにでも逃げ出したいだろう。
痛みと男から。
今すぐにでも意識を離したいだろう。
この苦痛から。

しかし彼には出来ない。

それを首の鎖が強く強く物語る。
首の時限爆弾が酷く指示す。


いっそ死にたい。

この考えを脳裏一杯にめぐらすも、
それは叶わない。


欲望のままがっつかれて、
愛の無い性をして、
人生に何の意味があるのだろう。



ミシミシ
ボコッ、ドカッ。

リューの唇の震えと頬に流れた涙は暫く止むことは無かった。

こういう欲の吐きだし方をする者ほど、
時間は長いのだ。

風丸は早く終われ、と
そればかりが頭の中を支配した。

















再び、街の中。
名も無き旅人が人通りが少ないマーケットの中を歩いていた。


「もし、そこの方」

旅人は1つの店の店主に止められた。
それは年老いた老婆。
周りには水晶、タロット、妖しい雰囲気のする物品ばかり。
おそらく、占い師だろうか。

「何だ?」

綺麗な顔をした旅人はぶっきら棒に応えた。
対して老婆は落ち着いて「いかがです?」と問いかけた。


「悪いが占いは信じちゃいないんでね」

旅人が踵を返し、その場を去ろうとした時だった。


「貴方の探し物」

老婆はそれだけを呟いた。
言葉はその旅人の歩み出した足を止めるには充分すぎるインパクトをもたらした。

老婆は続けた。

「それは暗い暗い世界の綺麗な華。古のものと新しき物。古の華は既に枯れ、貴方は未だ見ない華を探し続けこの地に来た」

「…ババァ、今なんつった…」

旅人は目を見開いて再び老婆を見た。
老婆は静かに微笑んで、

「如何かな?」

と問いた。


旅人は暫く考え込むと、
店の椅子に腰かけていた。


「アンタ、オレの何を知ってんだ」

「何を、か。強いて言えば何も知らないが知ろうと悟れば知れるだろう」

「…わっけわかんね。オレは哲学的な事は嫌いなんだ。さっきの続き、聞かせてくれねぇか?」

旅人は真面目な顔を露にすると、
占い師は静かに、

「しかと承った…」

と呟いた。






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