♂♀長編
□Z
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「(フゥ……)」
ギイィィと立派な造りの屋敷から誰かが出てきた。
忍ぶような動きをしているため、恐らく家の者には無断なのだろう。
「(予想以上に寒いな…)」
━━やっぱり、寝れない。
昼間の、風丸が気になり過ぎて眠れない。
本当にオレのことが嫌で逃げたのか?
でも風丸はオレに会えて嬉しそうだった…筈。
あの時の悲しそうな風丸の瞳が頭から離れない。
ドン!
「っ!す、すみません」
考え事をして前に目を配らなかったせいで逆方向を歩いて居た通行人にぶつかってしまった。
守はその事実に気付くとすぐさま人物に謝った。
「いや…余所見をしてたのはこっちもだ…」
「(旅人…かな?随分着ている物はボロボロだし、初めて見る奴だ)」
じぃっと相手を見ていると、不審がられたらしく後退りをされてしまった。
あ、やべ。と守は再び丁寧に謝る。
「すいません!!いや、ただ…この街の人じゃないなぁ、って思って!」
フーン…と男は納得したらしく、ぶつかった時に崩れた身なりを整え守に尋ねた。
「お前、あの塔。あの森ん中の塔について何か知ってるか?」
「へ…あぁ、『魔の森』…。オレ噂とか全然耳に入らない所に居るから…。悪いけど…」
「ちっ。やっぱし行ってみるしか無ぇか…」
「(舌打ちされた…)」
男は手をひらひら〜、と守に向けると再び歩き出した。
彼の肩から落ちる数量の雪が急いでることを察せる。
守が通りに向かおうとした時、ふと白くなった地面に目が移る。
先程までは無かった物がそこには落ちていた。
「(写真……?)」
雪も掛かってはおらず、確実にあの旅人が落とした物だろう。
守はそれを拾ってまじまじと見入る。
「これ……」
━━墓場?
写真に写っていたのは
2つの並んだ墓石。
サイドにはコスモスが添えてあり、写真を撮ったのは秋頃なのだろう。
その墓石は墓地では無い場所にあるらしく何処かの街が一望に見渡せる位置に在った。
彼の大切な人物の墓か。
守はやや悲しそうにその写真から目を離すと、丁寧にコートのポケットに仕舞い彼の足跡を追った。
『追いかけちゃ駄目だ…』
ピタ、と足を止める。
「…?あれ?」
今低い女の声が聞こえ気がしたんだけどなぁ…、
そう小さく呟くとまたぼすぼすと雪積もる道を歩き出した。
『行っちゃ駄目だ、』
『明王………』
幻か、
ただの吹雪の重なりか、
はたまた白い亡霊か、
確かに何かが写真の落ちて居た場所に見えた。
既に誰もそこには居なかったが。
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