♀長編

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血が欲しい
血が欲しいよ



赤い凶器は囁く。
月光のためか、血のためか。

「ああ…分かってるよ…もう少しで若い男の血を吸わせてやる。血の気が多いからきっと腹一杯になれるんじゃないか」

不気味な形相を浮かべた1人の老婆は紅に笑う。



━━〜〜っっ!!

何を言ってるのかまでは聞こえないが、男の叫び声が響き届いた。


「ほぉ、来たね」

にんまり笑って、老婆は思い出した。
全ての始まりを…。



老婆はまだ、若かった頃に愛していた男に捨てられた。
その時から極度の男嫌いに。

ただ殺すだけでは味気無い、と老婆は最高の絶頂から最低の一瞬を男達に味合わせてやろうと考えた。
そうすればハイとローと言うアンバランスにより最大級の辛さが与えられると。

最初は50の時。
孤児院で一際目立つ美貌を持った少女から。
それから10年、16になった少女を自分の恨みを晴らす道具にした。

しかし前から反抗的で生意気だった少女は老婆を裏切り、言い付けにも関わらず恋をした。
挙げ句、逃げ出そうと。



老婆は嫌いな物が増えた。

生意気な女。
ついでに苛苛しい友情も。


少女を使えなくなったと始末してから8年後、別な地で再び自分の欲望を始めた。
次は2人。
明るく可愛い少女と
妖美で綺麗な少年。

1人の少女とは違い、2人共中々従順であったものの今に至る。

更には少年の方は既に殺してしまった。
残るは少女1人。
彼女の命は老婆の手の中。


いつでも殺せる状態だ。


「フフフ……」

老婆がチラ、と包丁越しに下りの階段を見た。


老婆の充血気味の瞳には
息を切らして目を大きく開いた少年と、十字架を抱えていった少年が居た。


「ババァ…ここは屋上だ。もう逃げられねぇ。……後少しの余生に浸ってなぁぁ!!」

ボロボロのコートの中からナイフを取り出し、青年は不敵に笑う。

迫りくる解放の時を
狂ったように微笑んだ。


悲しそうな表情を浮かべる生気の感じられない青年は明王に語りかけた。


━━届かないことは、分かっているんだ。

『明王…お前の気持ちは嬉しいよ……でも、』

そんなに狂わせてしまったのか。
オレと、佐久乃が。

今のお前の生きる意味が老婆への復讐なら、それが果たされた後お前はどうなるんだ?
空っぽになったお前はちゃんと生きて行けるのか…?


「見とけ、守。あれがお前の大切な奴を奪ったんだ」

「………」


明王は勢いをつけて走った。
左手には鋭利なナイフ。
目には、標的。

「死ねぇぇぇぇ!!」


絶対絶命の窮地に老婆はにんまり微笑んだ。

「あんたがね」

「………!?」

明王の目に黒光る物が見えた時既に遅し、それは彼目掛けて放たれた。


パァン



「……っぐ…!!」

銃口は彼を指し煙が既に上がって居た。
明王は顔をしかめて右の腹を抑えてやっと立っている、そんな状態だった。

『明王!!』

「明王さん…」

幸次郎と守が彼を案じて名前を呼ぶ。しかし彼は老婆を睨み付けたままだった。


「チッ…、くそババァ。銃なんか隠し持ってやがったのか…!」

「ハン…青臭いガキがあたしに挑むもんじゃないよ」


予想以上に彼の息は上がっていた。血がどくどく止めど無く流れ続けると共に体力も削られて居るようだ。

「(畜生。充分考えられた事なのによ…!)」

『(明王、冷静さを欠きすぎだ…そんなんじゃお前まで……!!)』


老婆が銃口を未だ明王に向けたまま口を開いた。

「そう言やぁあんた、さっき風丸と話してたねぇ…」

嘲るように話す老婆に明王は目を開いたまま顔をみるみる青くした。

「………ま…さか…」

この続きは声にしたく無かった。出なかった。怖かった。


『止めろ!!言うな!』

幸次郎もまた、頬に冷や汗を流し必死そのものの表情で老婆に訴えた。

だが

「そうだよ。あんたが風丸に会ったから風丸を殺したんだ」


『……明王ッッ!』

お願いだ、
信じるなよ
お前は何1つ悪くない

だから、だから!



「」

彼は表情を変えること無く何を語ることも無く呆然と━━━絶望した。



嗚呼、そうか
オレだったのか

オレのせいで佐久乃も
オレのせいで風丸も

親友も殺されたのか


オレが余計な入れ知恵なんかしなければ
佐久乃に会わなければ
死ななかったんだ

幸次郎もオレが




















がくりと膝が地についた。
自責、絶望、失望━━
全てが彼を巡った。



『明王、明王、明王!!』
幸次郎の叫びなど、
聞こえる筈も無かった。




「え…?風丸は死んでなんか無いぞ……ハハ…」

崩れたのは、もう1人。




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