♀長編

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「マジお前ムカつくんだけど」

「死ねば良いのに〜」

「殺しちゃう?」

「「キャハハハ!!」」


佐久間、彼女は今まで何不自由無く自由気ままに生きて来た。
恵まれた環境、境遇。

それまでに沢山の人間を精神的に傷付けてきた。
彼女が悪い訳では無い。
それを咎める者が居なかったのが問題なのだ。

善悪の区別など付かない。
甘やかされ放置された少女の悲しき姿。


「いってぇな…!」

両のややつった二重でギロリと睨む。
だが彼女達には意味が無いらしい。

抵抗は馬鹿にされ笑われる、屈辱にしか為らなかった。


「アンタさぁ、いつも思ってたんだけど何でこの学校来たの?お嬢様なんでしょ?……プッ」

キャハハハ!と又も耳障りな高笑いを狭い場所に響かせる。
まだ4時だと言うのに、真っ暗で教室を半分にした程度の個室。
女子生徒達の後ろに金属製の白い扉が在った。恐らく、此処は

「(旧校の用具庫……!)」


ギリリ、と歯を軋ませた。
何故なら敗北を即座に理解したため。

旧校なんて夜に警備員が時偶来る位で生徒の出入りも滅多に無い。
オマケに用具庫。
公共物が駄目にならない様に中はコンクリートで覆われている。
扉が開かない限り声が届く事なんてあり得ない。

抗う術は何も無く、ただ羞恥を喰らうだけ━━



「アンタが1年ん時学校から追い出した2年、あたし達の友達だったんだよね」

「(…そんなのいちいち覚えてらんないっつの)」

「理由はお前とぶつかった、それだけなんだって?」


ドン!!と女子生徒の1人が彼女にギリギリ当たらない位の壁を思い切り叩いた。
彼女達の怒りが理解出来る。


「(……あぁ)」

思い出した。
わざとらしくあたしにぶつかって来て、あたしの細い足に青アザを作った奴。
極太の身体でか弱いあたしを傷付けた奴。

ムカついたからその日のうちに街に居られなくしてやったっけ。
パパに頼んで、さ。


……ぷっ!

「あははっ!!」

急に彼女が腹を抱えて宝かに笑い始めた。
それは楽しんでいる様子では無く、蔑むような…。


「……何がおかしい訳?」

「あたし達はあんたのせいで友達を失ったって言うのに!」

「あんた1人が居なくなれば良いのに!」

「あんたなんか……誰にも必要とされて無いんだよ!!」



「……!」

━━チクリ。


『強情』と言う鎧を纏う佐久間には蚊に刺された程度の痛みだったかも知れないが、それでも確実にダメージが生じた。


「………」

「え?何?ショック受けちゃった訳?」

「なにそれウケる!」

「本当の事言っただけなのに!」


端から見たら、佐久間が純粋にいじめられて居るだけ。
でも、彼女はそれ以上に沢山の人を傷付けて来たのだ。
本人は自覚無しにしても………。


「…っさい!それでもあたしはアンタ等より、生きている価値が遥かに高い!…どけ!」

流石に辛くなって来たのか、佐久間は立ち上がり扉の前に憚る女子生徒の肩をグイ、と押し出した。
女子生徒からはキャ!と小さい声が漏れた。


彼女達は遂にスイッチが入ってしまったらしい。

「…いつまでも見下してるとねぇ、痛い目、見る…っつってんでしょ!!」

「あっ……!」

生徒の1人が、彼女の右目の眼帯をむしりとった。


瞬間、誰もが口を閉じる。



「…………!」

「き、きっも!」


彼女の右目は、潰れて居た。

「てめぇ……!殺す!!」

佐久間は全ての感情を、『憤怒』に変えた。
辛い事を忘れて、悲しみも隠して。

ショック故の怒り。


気付けば佐久間は眼帯を外した女子を力の限り、殴って居た。


「ちょっと…!」

「あんた…何してんの!?」

「同情なんかすると思った!?そんなキモい目だからって、うち等の怒りは変わんないっつの!」


事態はますます悪化していくばかり。
それが続けば彼女は、彼女達は引き返せない所まで行ってしまうだろう……。






(あたしは悪く無い。正しい。悪いのはコイツ等…!)

歪な薔薇程、美しいのは何故か。



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