♂♀長編
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━━あたし、佐久間は源田幸次郎を好きになりましたッ!
今までとは180度異なった突然の告白。
彼女の生意気が直ったと思ったら次は自分に恋心を抱かれてしまう。
「ちょ、ちょ、ちょ。落ち着け佐久間。それは恐らくあんな状況下でオレが現れたからで…」
源田は慌て彼女への否定の言葉を述べる。
やはりこうなる事は予想だにしなかったらしい。
「…キッカケはそうだけど、分かったんだ!ビビビって全神経が訴えてる……あたしの運命の相手は、源田だよ!」
「……」
あんぐりと口を開いたまま源田は動かない。
呆気に取られたのもあるが、彼の思考は別な事に移っていた。
冷や汗が一筋、流れる。
「(ヤバい……!)」
生徒に手を出したと思われたらオレは終わりじゃないか!
……でも折角コイツは変わろうとしているのに…。
ど、どうすれば……!
「あたしに惚れられた事、後悔させてやる!覚えてろよっ!」
ビシッと佐久間は人差し指を彼に向けて、言い放った。
頬が赤い。
「(既に…な)」
源田はハハ…と力無く微笑むと佐久間は「さて、と」と呟き立ち上がった。
「このまま帰ったらパパとママ、怒って学校を潰しちゃいそうだからなぁ…制服、新しいの買って来ないと……」
鞄の中から携帯を取り出すとカチカチ、カチッと中々の早さでそれを動かす。
「制服欲しいんですけど…既製のって……」
どうやら仕立て屋に電話をしているらしい。
赤くなった瞳からは想像付かない程、しっかりした性格だ。
「(……強い子だ)」
源田はそれ故に、悲しくなった。
あからさまな、いじめを受けての早い立ち直り。
空元気を取り戻した理由は色々とあるだろうが、それは仮初め。
本当は、まだ━━、
「(辛いだろうに)」
微かに震える手元がそれを物語っている。
未だ素直に自分の気持ちを表せない佐久間が、不憫で健気で可哀想だった。
出来るものなら、コイツの支えになってやりたいよ。
そう源田は思った。
しかし現実は厳しい訳で。
教師と生徒と言う溝は近そうで、遠い物で━━…
パチンと携帯特有の閉じる音がした。
はぁー…とため息を付く彼女の姿が目に入る。
「既製はサイズが無いって言われちった。明日の午後までには出来るって言ってたけど……」
「そうか…今日はどうするんだ?その格好は不味いだろう」
明らかにいじめの後と分かる、人為的なダメージだらけの制服と少し目立つ生傷。
髪は美容室帰りと言われてもおかしくは無い出来だが。
「うーん…ジャージで帰るしか無いか…。多分、お手伝いさんとかに怪しまれて、パパとかも違和感持つだろうけど」
仕方ないよなー…と短くなった髪を滑るように触りながら苦笑いを繰り出す。
その強がりが、痛い程悲しい。
「………」
「源田、教室からジャージ持って来てくれないか?流石にこのままじゃ入れないからさ……」
「!あ、あぁ分かった!」
その時、ピーンと彼の頭が閃いたのは秘密だ。
ちょっと待ってろよ、と言い残すと源田は小走りでその場を後にした。
「いってらっしゃーい」
彼女が小さく呟いたそれも、また秘密。
「(背格好も大体似てたし、多分大丈夫だろう)」
彼が向かっているのは教室では無い。
第二校庭にある、赤のような茶色に、白線が塗られた広くて目立つ場所。
陸上のトラック、だ。
何人かがそこで走ったり、用具を使用したりして様々な事をしている。
「お」
お目当ての何かを見付けたのか、源田は声を出して感嘆を漏らすと其処へ走って行った。
着いた場所に居たのは、
「あれ…先生?」
ウインドブレイカーを上下どちらも身に付けた、ポニーテールが風に靡く少女の元。
「よっ、風丸!ちょっと良いか?」
ニイッと、何処と無く意味深に彼は微笑む。
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