♀長編

□三
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ハイエナと称され、血に飢えた瞳を。
反面、頭脳明晰故に常に油断を見せないような表情。

そんな彼の『ポカーン』と間の抜けた顔はかなり希少価値が高いだろう。


原因は彼女の発言。
突然かつこざっぱりとした告白には拍手を贈りたい程勇ましいものだった。

漸く不動が落ち着いたのか、ゆっくり口を開いた。



「何…あんたオレを好きな訳?」

常人ならば聞き返しづらいような台詞でも彼にとってはお構い無し。
真顔で尋ねて来たのだ。

しかし、また彼女も。
只者では無いのだ。

「そうだよハゲ。1年の時からずっと好きだったんだっつーの」


━━…桜の咲く、あの日から。
初めてお前に会った時から、ずっと……。


「ハゲっておま…」

「うるさい泣き虫ハゲ。黙って話聞け」

「学校ン時と性格違すぎじゃねーの…騙されたわ」


言葉では呆れて居るようだが、顔が少し笑って居る。
少年の重かった表情が、先程から変わり始めた。


「フン。もう高校生だからな。男みたいな口調だと引かれちゃうだろ」

彼女の言い分は最もだった。
ああ、成る程ね…と不動もそれに同意する。


「はーぁ。ショックだったな〜…まぁ吹っ切れたけどさ。今だけ皮肉を少々込めて、精々お幸せに!」

結果への小さな反論を1つして風丸はよいしょ、と立ち上がる。
地面に触れたスカートの部分をパシパシ叩き、汚れが取れると「じゃあな〜」と彼女は不動に背中を向けて歩き出した。


「あ?…おい」

引き留めようとしたのか、不意に声が出た。
尤も彼女には聞こえて居なかったようだが。


「……ク、」

ハハッ……!


無視されてしまった自分が情けなくて、
泣いてた自分が嘘のようで、
フラれただけで落ち込んでいた自分が馬鹿みたいで、
校内の人気者が自分に惚れてたなんて予想外中の予想外で、

1人水面に笑い声を滑らせた。


「バッカみてぇ…ハ、ハハッ!」

そうして、日が沈む。
無意識のうちに『彼女』からのメールを消していた事なんて気付く事は永久に無いだろう。

悲しみは途方に。
但し、消えてはいない。


















━━ピーンポーン…

住宅街の一角でありがちなチャイムが鳴った。
時計は既に7時を回っている。

その家のドアがガチャリと開いたら、玄関先に居た人物は家の中に駆け込んだ。


「なっ!?どうしたの風丸!」

部活から帰ったばかりなのか、制服のままの幼なじみが彼女を出迎えた。

「たっ助けてくれ…!」

「へぇっ?」

耳まで真っ赤に染めた風丸はひぃひぃと言わんばかりに円堂にしがみつく。

「何、どうしたんだ?」

「………っ、ふ、ふ…ふど、ふど…不動に……!」

口まで回らなくなってしまったらしい。
普段、勇ましく振る舞う彼女でもここまで動揺する出来事とは。


「こ、こここくっ…!」

「まさか告白したのか!?」

円堂が風丸のふらつく肩をガシッと掴み真顔で尋ねると彼女は小さな頷きを数回する。

「何か、普通に話してたらスルッと……」

「……っ、頑張ったじゃん!スゲーな風丸!」


言葉では何とでも言えた。
大切な幼なじみのために嘘を付くことなど容易だ。


『お前はオレとずっと親友で居てくれよな』

中学時代に言われた残酷な口約束を彼はずっと守っている。

彼女は彼にとって、
大切な幼なじみで、
心からの親友で、
大事な人だから。


だから彼女を傷付ける人間を決して許さない。
それが例え、自分でも。

だから
風丸が「佐久間と仲直りしたんだ〜」とメールによる報告をしても、
彼女が居る男に告白をしても、


━━やや遡ると
幼なじみから初めて聞いた恋話の相手が評判の悪い同級生でも、
彼女が高校に入って初めて出来た友達がタチの悪い同級生でも、


円堂は本音を誤魔化しつつ常に一緒に喜んだ。
彼自身ももう感覚が麻痺してしまっているのでは無いだろうか。



「でね、円堂」

「うん」

彼は彼女に感付かれる事無く、それから2時間程ずっと良い聞き役を演じていた。

風丸がニコニコと帰るのを見送ると彼はひっそり呟くのだ。





中学の時は良かった。
風丸はオレしか居なかったのに。




━━と。



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