疾風少女伝

□変化
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「…何の用だ」

「そんなに凄まないで下さいよぉ。少し、お話したいだけなんですから!」

「…部活が始まる前に手短に頼むぞ宮坂」

「はぁい」


放課後、宮坂と鬼道は部室の裏側に居た。
部室に入ろうとした鬼道を彼が直前に捕まえたのだ。
ニコニコとした様子で宮坂は居る。
対して鬼道は少し怪訝な表情を。

きっと何か感じ取ったのかも知れない。
鬼道は今まで全国の猛者達と戦って来たのだから、第6感が鍛え上げられてるのだろう。


宮坂は喋り始めた。

「ええっと―…手短に、でしたね。では単刀直入に窺います。何故雷門に来たんですか?」

「帝国の無念を晴らすためだ」

「へえ〜…。こっちの都合は考えずに、ですか」

「……!」


既に宮坂の表情は変わって居た。
笑ってなどはもう居ない。

「まぁ僕も貴方がチームに来る直前に入ったので何とも言えないんですけどね。ただ……」

「何だ」

少しバツが悪そうに、
鬼道が次の言葉を尋ねる。


「風丸さんと話し合って下さい」

「……!?」


もう一度、
大きく息を吐いて述べた。

「風丸さんと話せ!!」


鬼道は面食らった。
まさかあの礼儀正しく明るい後輩がここまで強く話すなんて。
それに彼の話したいと言う内容が予想外だった。

「…風丸と?何故だ」

「貴方は何も分かって無い。このチームのことだって、風丸さんのことだって!」

「風丸のこと?」

「はい!!…とにかく、このままじゃダメなんです。それにかの……彼は非常に悩み易くて弱い人です。良い関係で居たいなら、2人だけで話して下さい」


ここまで━━
後輩との仲に絆が生まれるものなのだろうか。
信頼や友情とはまた別な、何か他の絆。


オレはこいつ、宮坂に対する印象が変わった。


「分かった。今日にでもすぐ」

宮坂も安心したように
「ありがとうございます」と一礼し、表へ回って行った。


雷門……な。
興味の対象は円堂だけかと思ったが…予想以上に楽しめそうなチームだ。

そう小さく小さく心に呟くと彼も部室へと入って行った。


「(風丸、な)」

















「よーし!今日の練習はここまで!解散!」

円堂が終了を合図すると同時に鬼道は風丸の元へ駆け寄った。

勿論、風丸は少し挙動していたものの。


「な、なんだ?鬼、道」

多分、後退りしているのは気のせいでは無い筈。

お構い無しに鬼道は『彼』の手首を掴むとこう言った。

「話をしたいんだが」

「オレと…鬼道で…?」

「勿論」


若干震えている手首を掴みながらニッコリ笑って居る。


皆が片付けをして居る間に全員の了承を得て2人は薄暗い部室の中に居た。

風丸は腹をくくったのか、堂々とした様子でタイヤの上に座って居る。
鬼道は遂に口を開いた。


「なあ風丸」

「何だよ」

「お前、オレが来てから変なのか?」


「………へ」

「先程宮坂から聞いた。どうもお前の様子がおかしいと」


風丸は黙り込んでしまう。
否定は、無い。

鬼道は自慰のための溜め息を浅く吐き出した。


「申し訳なかった」

「え!?いや、ちょ、鬼道!?」

深々と風丸に向かってお辞儀をしている鬼道の姿がそこにはあった。
当たり前の様に風丸にはその詫びの意味は分からない。
ただ、止めろと言うだけ。


「お前達の気持ちも考えずに雷門に転校してきてしまった。…考えてみれば酷いことをした。オレはお前の腹に思い切りボールをぶつけたり、ボロボロにさせたり……」

「あ、え、えっと……ち、違うんだ。その…」


風丸からの考えもしなかった反応に鬼道は「は?」と疑問めいた表情を示した。


「お前に少し嫉妬してただけだって。…だから気にしないでくれよ!」

ニカッと晴れきった笑顔を見せ部室を一方的に出て行ってしまった。
その笑顔にやられたのか、暫く彼は顔を赤らめながら立ち尽くして居た。












果たして
本当に『少し嫉妬』していただけなのだろうか。


その答えはやがて明らかになる時が来る。



ただ、今回の件で少しばかり彼女が救われたのは確かだろう。

宮坂の思いやりと
鬼道の詫び。



そう長くは続かないが。





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