疾風少女伝

□心震
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何でだろう。

豪炎寺の身体にくっついて居るだけなのに、心臓が爆発しそうなくらい弾ける。

出来ればもう少しだけ…
こうして居たい。




そんな事、ついさっきまで考えてたのに。

「豪炎寺……何で?」

「……」

今日はミス多かったみたいだけどさ、でも人には調子ってものが在って…
ただそれが悪かっただけなんだろう?なぁ、ねぇ、豪炎寺。

「何で監督の言葉をすんなり受け入れるんだよ…っ」

「……すまない」


出来れば否定して?
オレが求めているのはお前の反抗だけだよ。
肯定の言葉は要らない!

「……行っちゃうの…?」


弱々しく、今にも泣きそうな声で彼女は問いた。
円堂が豪炎寺を引き留めようとして、失敗して、彼女はこっそり彼の後を付けていたのだ。


「行かないでくれよ……」

ポタポタと自然に溢れる彼女の涙の意味は何故か。
震えるその手は何なのか。


「お願いだから……っ」

彼の2、3歩後に身を止めていた風丸はタ、タ、タと足を進ませる。

豪炎寺の自分より一回り以上大きな身体を後ろから細い手でギュウ…と強く抱き締めた。

「嫌だ、嫌だよ。オレにはお前しか居ないんだ。見ただろ?さっきだって…!」


豪炎寺は背中に温かい水滴を感じる。
彼女の涙、だ。
それでも彼は、

「ごめんな…?」

それでも彼は彼女を突き放す事しか出来なかった。


理由も聞かせてくれない彼の真意を風丸が知る筈も無い。
絶望を表す事しか出来ずに居た。


「う、うぐっ…ふぁ…」

そ…と彼女の温かな水溜まりを豪炎寺は袖で拭き取る。
その時に彼が見せた表情は何とも言えない程に、悲しそうで。辛そうで。
そして無理して笑って居るみたいで。


風丸の細い身体に手を回して抱き締め返した。

「なぁ、風丸。お前は頑張ってくれ。色々あると思う、けど、オレの意志をお前に預けるから。だから、お前は…諦めるな」

「………」

返事は無い。
時折ぐずる啜り声が聞こえるくらいだ。


「お前にはその脚がある。女なのに、凄いよ、最高だ。日本一に立ったその脚とスピードでお前は奴等を倒すんだ」

「……っ」

「お前は1人じゃ無いんだから、そんな泣くな」

空色の髪の上から頭を優しくあやすように撫でる。
だが、風丸の涙は益々荒れるばかり。


「豪炎寺が居なくちゃ…!」

「風丸」

クイ、と小さな彼女の顎を左手で上げた。




「……!!」

震える風丸の唇に、震える彼の唇が重なった。


「好きだ」

「………っ」

拒むことも首を縦に振ることもなく、その言葉を耳に入れたまま泣きじゃくる。


うわぁぁぁん!!


彼の温もりが消えても、涙が止む事は無かった。












彼女の隣は酸素と窒素と少しばかりの二酸化炭素と『思い出』と『想い出』が在った。
それ以外は存在しない。

敗戦の悔しさと仲間が消えた重苦しさが狭いバスの中に立ち込めている。


彼女の息も濁ったまま。



風丸をそれでも突き動かすのは
消失感と責任感。

雷門の皆、半田や宮坂を失ったから、彼等の分まで戦おうとした意志と、円堂をサポートする立場でそして誰よりも速いこの脚でエイリアに一矢報いてやろうと言う決意。

この2つが拮抗して、彼女の力になっていたのに。


消失感は増すばかりで
責任感は衰えるばかり。




円堂はオレから離れていく

豪炎寺や鬼道が現れて。
塔子も入って。
いつも円堂の隣に居たのは

「(オレ、なのに……)」


揺らぐのは
瞳と風丸の決心の意志。




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