疾風少女伝

□舞姫
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雲1つ無い快晴の空の下、数名の少年達が静かな暗がりの空間で語っている。

その部屋は重苦しくて、何処か悲しい雰囲気を醸し出していた。


「円堂が行ってたぜ。豪炎寺が戻って来る時に雷門は最強メンバーが揃うってよ」

「ふぅん…じゃあキャプテンにとって僕等は必要無かったんだね」

少年達は病んで居た。
身体も、精神も。


彼等は何を隠そう、怪我で敗れていった、雷門中サッカー部だ。
病室には染岡、松野、半田、影野、宍戸、少林、見舞いに来た栗松が居る。

皆怪我の箇所は異なれど、同一に表情は重かった。


「……強く、なりたかったな…」

半田がぼそりと呟いた言葉は皆に共通する思い。
弱いから怪我をした。
弱いから必要とされない。

この思考は彼等を腐らせるばかり。
しかし誰もそれを咎める事は無かった。

『雷門中』の活躍は彼等とは無縁。
ニュースでそれが流れるとテレビの電源を落としていた。




━━クスクスクス…

「!?」

「誰だ!?」


窓の外から声が聞こえた。
嘲笑う、不気味な笑い声が。



「強くなりたい?」

「「…!?」」

パリン!と病室の窓が何者かの蹴りで割れ、誰かが室内に侵入する。


「あたしと一緒においで?」

皆が目をぱちくりとさせ驚く。
それは学校の有名人だったために。

「お前…同じクラスの風丸一加じゃねぇか…」

「な、何してんの…?」


染岡と松野が問う。
侵入者はニコ、と笑みを作りながらカツカツとヒールの音を響かせ部屋の中心に立った。

「そうだ。私は一加…別の、捨てた名を一郎太…」

「「え?」」

「一郎太って風丸の名前…」

「風丸と親戚なんだろ?」


少女は再び高らかに声を上げた。

「アハハハッ!!信じ込んでたの?あんな嘘。風丸なんて名字雷門には私しか居ないのにッ!バッカみたいだ」

「そ、それじゃあオレ達が今まで一緒にサッカーをしていたのは……」

宍戸の言葉は途中で止められた。何故なら彼女がいつの間にかに自分の前に居たからだ。


「そう。私」

ス……と年下の少年の首筋を指でなぞる。
宍戸の顔はみるみる真っ赤に染め上がっていった。


「…風丸一加って確か陸上部だったよね。だから速かったんだ」

「もっとも陸上部には男っぽくして行ったけどね」

「女にしか見え無かったけど」

悪態を付こうとする松野の肩にそっと手を回す。

「嘘つき」

「………!」



バッ!と漆黒のマントを翻えし、彼女はまた中心へ立つ。

「なぁ、強くなりたいだろう?」

風丸は首から垂れている、細い紐状の物を服の中から引っ張り、皆にそれを公開した。

「……力を得る事は、素晴らしい……!!」

妖しく輝く紫の光を浴びながら。


「も、もしかしてアレ、エイリア石じゃ……!」

「正解」

半田の耳元にて囁いた。
わわっ!と彼は耳を赤くする。


「私達は『雷門中』じゃ無いんだ…捨てられたんだぜ?皆に……」

「「……」」

「…『奴等』を見返そう?」

「「……」」


誰も反応が無い。

肯定意見も、
反対意見も、無いのだ。
彼女はニィと笑った。


「お前は、それでいいのかよ!!」

渇を入れるように、染岡が大声で叫んだ。
しかしそれは風丸の予想範疇であって━━


「お前もそれでいいの?」

「なっ…何がだよ!」

彼の真正面、ベッドの上に乗り彼女は述べる。


「ずぅっとこのベッドの上で過ごすつもり?そして無駄に吠え続けているの?怪我が治ったら戻るの?何処へ?居場所の無い雷門に?」

「……!」

図星、だったらしい。
唯一の反抗心の芽が摘まれてしまった。


「僕は風丸に賛成」

遂には参加の声が上がる。


「オレも風丸に」

「…僕も」

「オレもです」

「オレもでヤンス」


1つ2つ3つ。
1輪咲けば直ぐに周囲も咲くのは自然の摂理。

それでもたまに、1輪だけ遅咲きがある物。
結果としては、全て咲くのだが。



「…強くなりてぇ」



紫の光が皆を包む。

風丸は目を見開き、口角を上げ妖しく呟くのだ。



待ってろ円堂━━



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