疾風少女伝
□堕君
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「な、なんだ…?」
キャラバンからぞろぞろと『現』雷門の仲間達が降りる。
再建した雷門中学の姿を知っていたメンバー達はキョロキョロと辺りを見渡す。
生徒はおろか、人の姿すら見えない。
それに、どす黒いこの霧は。
「誰かー…?居ないのー?」
「居るぜ」
円堂の問い掛けに答えたのは闇皇帝の声。
「!風丸っ!?」
流石は幼なじみと言った所か。姿見えずとも声だけで瞬時分かるとは。
不可解な霧の中から11の人影がうっすらと見えた。
それは彼等の旅の『最終点』。
「だ、誰だお前達…!」
円堂は警戒しているらしい。
当たり前だろう。
11人の中の、リーダーらしき人間が忌まわしき黒いサッカーボールを手にして居るのだから。
格好だって彼等は怪しい。
黒いローブで姿を覆い、フードで頭すら隠している。
「怪しいぞ、お前達!」
塔子が高い声で叫んだと同時、リーダーらしい人物はフードを卸した。
「「………!!?」」
誰もが目を白黒させる。
言葉を無くす。
驚きが強すぎた。
正しくは、驚愕が二重奏となって地球を救った━━英雄達に降りかかったのだ。
「久しぶりだな」
そう告げたのは紛れも無く、風丸。
絶望を幾つも味わい不幸と悲哀を経験し続けた彼女。
「ん?どーしたんだお前等?そんなアホ面して。で、誰だこの嬢ちゃん」
エイリア学園だろ!
倒さなきゃだっろ〜!と、吠える彼は彼女を唯一知らない。
「つ、綱海さん……」
クイッと立向井が何も知らないその少年の背中を引き、その経緯を話し出す。
邪魔が入った、と彼女はチ、と下を打つ。
そして未だ呆然としたままの英雄達。
無理も無い。
今まで普通に接していた『風丸一郎太』は『女の子』だったのだから。
「風丸……!?」
「お、女の子!?」
「どういう事!?」
選手からマネージャー、響木監督まで皆が驚く。
「か…風丸、何、してんの…?」
わなわなと、彼女の幼なじみが震えてその光景を見入る。
理解はしているようだが、受け入れられない、と言った所だろう。
黒のサッカーボール
首から垂れたエイリア石
彼女の異質な髪
これを目にして正常だなんて言える訳が無い。
「風、丸」
「…!」
息絶え絶えに彼女の名を呼ぶのは、彼。
彼女に一番苦しみを与えた人物━━豪炎寺。
「何故だ……」
彼は風丸に無念を伝え、意志を彼女に渡していた。
彼女が崩れないようにと…。
だが、豪炎寺がキャラバンに戻った時にはもう風丸は居なかった。
そして、今、目の前に。
墜ちた彼女が。
「…才能のある奴には分からない!努力したって、限界は来る物なんだ!今からそれを、証明してやるッッ」
バッ!と勢い良く翻したマントは合図だったのだろうか。
他の10人も一斉にフードを卸し素顔を晒した。
「染岡くん!」
「マックス、半田、影野!」
「少林、宍戸、宮坂くん、栗松まで!」
「源田!?」
「霧隠……!」
吹雪、円堂、壁山、鬼道、豪炎寺が彼等の名を叫ぶ。
そして彼女は笑うのだ。
「サッカー…やろうぜ?」
と━━。
「(鬼道クン達、アイツ等には勝てねぇな)」
1人の少年が、校舎の屋上にて、不穏ざわめく様子を上から見物している。
その首にはもう、禁断の石は無かった。
「(100%、勝てねぇ。確実に)」
怨念、後悔、妬み、憎しみ━━。
負の感情は一線を越えてしまえば、何よりも強い力を持つ。
それを不動は若くして理解していたからこそ、結果が見えて居たのだ。
それ等に加え、闇皇帝の姫君は綱海以外全てのメンバーの能力を把握している。
味方が敵になったら怖いとは、正に言葉通り。
更に石の力を受け、闇皇帝達は円堂達にとって
最悪最強の敵となったのだ。
「(唯一弱点となるのは源田と忍者野郎だけだが…)」
その弱点に気付かない程の馬鹿じゃねぇだろうな、研崎は。
まっ、どう転ぼうがオレには関係無いね。
「強者こそが全て、だ」
円堂。
私と一緒に━━
サッカー、やろうよ。
あははは……
あはははははははははっっ!
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