疾風少女伝

□自分
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「円堂ー部活行こうぜ〜」


平穏な日常は再び訪れた。

墜ちた者は闇から這い上がり、それぞれの憎しみや怒りは嘘みたいに消え去った。
━━いや、正しくは心の奥に封じ込めた…と例えるべきだろうか。


人は必ずしも心に闇を持つ。
消す、なんて不可能なのだ。

だけど人は1人では無いのだから。独りきりで悩む必要なんて無い。時には弱音を吐けば良い。
溜めすぎた感情がいざ爆発すると取り返しの付かない事に陥るかも知れない。


彼等はそれを学んだ。



「おう!!」

教室の入り口で呼び掛ける半田の誘いにのり、円堂は鞄を手に取り机から立ち去った。
豪炎寺や鬼道も共に。



学校へ行って、授業中は各々活動をし、放課後は部活する、そんなありきたりな彼等の日常は戻ったのだ。



唯1つを除いて。





「(……あ)」

部活を早くしたい!と言う感情を沸き質せながら廊下を歩いて居ると前にとある人物が居た。














『皆ぁ!サッカーやろうぜ!!』

円堂の叫びに同意して、皆は『おーっ!』と勢いの良い声を響かせた。


『…待って!』

『『?』』

そう言ったのは、彼女。
━━この時点で風丸は変われた事が理解出来る。

今までの彼女なら、言いたい事も何も出来ずに只心中に押し込めるだけだったから。


『何だよ?風丸』

円堂が問う。
彼女はゆっくりと歩くように答えた。

『私、やり直したいんだ。1から、さ』

『…え……?』

彼女の答えは残酷と改心の両方を含めた思いだった。

『サッカー部、辞める』

『『!!』』

皆が目を見開いた。
彼女の決意は誰も予想していなかった言葉だったからだ。

『それじゃ陸上部に…!』

『ううん、部活はやらない』

然り気無く期待を込めた宮坂の発言は軽く流されてしまった。
風丸は続ける。


『悲観的な意味で部活を辞める訳じゃないから、心配しなくていいよ。ただね、やり直したいんだ。自分を……今からでも普通の女の子になりたい』

『風丸……』

豪炎寺の表情からは、悲しさが読み取れた。

『だから、私がサッカーをしていた事実は皆、忘れてくれないか?…そして、私がやり直せるまで私とは関わらないで欲しい…』

『そんな…』

円堂があからさまに寂しそうに反論の意を唱えようとする。
だが、それは鬼道の手によって止められてしまった。



『勘違いしないでくれよ?……私はお前達に出会えた事を一生、忘れないから』

くるっ!と彼女は踵を返す。そしてスタ、スタと歩き出した。

『ありがとう、皆』

ありがとう、サッカー。
ありがとう、絆。
ありがとう、運命。
ありがとう、神様。
ありがとう、出逢い。

私は何1つとして後悔していません。
人生の出来事、全てを含めてそれは『私』なんです。


だからこそ新しい自分を創りたい。

全てをやり直して、自信を持てる自分になりたい。

それを気付かせてくれたのは貴方達だから。
だから暫く距離を置きたい。


そして、いつか生まれ変わった私を見て欲しい。


『(ありがとう…皆)』

大好きだよ。























「………」

バク、バク、バク。
そんな彼女と放課後の廊下で後少しで、すれ違う。
高鳴る心臓とは反対に彼はゆっくり歩みを進めた。

少しでも長く彼女を感じていたい。
それはきっと皆同じ。




「」

スッと2人は言葉無く前後した。
後ろに居た豪炎寺も同じく。

「(そっか)」

「(そうか…)」

君が望むなら、僕らもそれに従おう。


ずっと待ってるよ。


君と再び話せる日を。



君の返事をまだ、聞いて居ないから……。

「「(待ってる)」」


それまでは
ずっと君に想いを抱かせて。




一筋の風が、空色の彼女の髪をさらりと流した。

晴れ渡った空色はきらきらと美しく輝く。



「(ありがとう……)」







end.
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