学パロ♀♂
□佐久間さんの真実
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『君は赤いバラみたいだね!』
小学1、2年生ほどの少年が同い年くらいの少女に告げた言葉。
クラシックの音楽が鳴り響く、大規模なパーティーの1シーン。
大人たちが自分たちの交流と、自慢のために開いた豪勢な会だった。
子供も何人か居るというのに、聞こえるのは低いバス、バリトンの声ばかり。
子供の声は聞こえなかった。
しかし、今初めて少女は子供の声を耳にした。
目をパチクリさせながら。
『…赤いバラ?』
彼女は困惑しながら言葉を返す。
少年はニコ、とわらいながら「うん」と頷く。
『キレイだったから、思わず話しかけちゃった。ごめんね?…じゃあ』
『まって…!』
先程からつまらない大人の話に耳を傾けていた少女はチャンス、と思わんばかりに少年の正装の袖を引きとめた。
『たいくつじゃない?』
少年は首を縦に振った。
『君ってさくまさんでしょ?』
『そう。よく知ってるねぇ』
アハハ、と頭をもどかしそうに掻きながら少年は話し続ける。
『学校、おなじなんだけど』
『…うそぉ』
半分硬直しながら半信半疑の様子を見せる。
それに対し、少年はやっぱり…、という表情を垣間見せる。
『ていこくがくえん、しょとうぶ1年Cくみなんだけどなぁ……』
『…じろも……そこだ…』
『じろ?』
『あ…じろね、なまえじろうって言うの。おかしいでしょ……』
『ううん』
少年は1コンマ置き、真っ直ぐに呟く。
少女は怪訝な顔をする。
『ぜったいウソだ!男の子みたいでヘンって思ってるよ!』
『思ってない』
幼いながら、凛とした剣幕。
少女は声色を変える。
『……なんで?』
『おれ、こうじろうって言うんだ』
『こうじろ?』
『うん。君はじろう、おれはこうじろう。覚えやすいし、なまえがそっくり!なんか、うれしいな』
『ふぅん…』
『ね?ていこくがくえんってさ、なんかさつばつとしてるからさ。友達できなかったんだ』
『それわかる!』
手を差し伸べて、少年は笑った。
『だからさ、友達になろう?』
少女もニカッと笑って少年に差し伸べられた手を握る。
『うん!』
2人で他愛もないような、実に子供らしい会話を繰り広げると、やがてパーティーも終盤になった。
2人はそれぞれの親に呼ばれ、親元へと名残惜しげに戻っていく。
そして、徐々に人々が帰り始めていく。
少女はニコニコして送迎車に乗り込もうとした時だった。
何処からか声が聞こえた。
『幸次郎さん、何処へ行くの?』
『ちょっとまってて!』
『こうじろ!?』
少年は息を切らしながら彼女に微笑みかけ、背中に隠していた左手を差し出した。
その手には。
『赤い…バラ……?』
『えへへ…かいじょうで見つけたから一輪、もらって来たんだ!トゲがあぶないからって包んでもらったからだいじょうぶ!』
『くれるの…?』
『うん!じろーにぴったりって、言ったでしょ?さいしょにさ!』
少女はうれしそうに一輪の高貴な薔薇を受け取り、少年に『ありがとう!』と告げた。
少年も『じゃあ、またね!』と言って親元へ帰っていき、少女は車に乗り込んだ。
車の中で母が言った。
『男の人から赤い薔薇をもらったら、白い薔薇を返すのよ』
『なんでー?』
娘の疑問に母はふふ、と含み笑いをしながら少女の頭を優しく撫で、こう言った。
『赤い薔薇は****、白い薔薇は****っていう意味があるの』
『ふーん』
幼き佐久間には理解できなかった、
その言葉。
「なんだったっけ…」
静かな部屋のベッドに寝そべりながら、彼女は呟いた。
「……そういや、源田に白い薔薇、渡さないままだったな…」
もう1度、小さく呟いた。
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