短編小説
□夢を見て君に会ってまた恋しくなって。
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*高校生設定
*オレッ娘風丸さん
『じゃあな、風丸』
そうお前はオレに告げて
消えてしまった。
遠い遠い、空の向こうに。
『オレさ、イタリアのプロチームから声がかかったんだ』
『え………』
空色の長い髪を1つに束ねた少女がフラ、とよろめいた。
対象的に茶色の髪にバンダナをしている少年は落ち着き払っている。
少女は理解することが出来ず、『今、なんて言ったんだよ円堂』……この言葉を暫く繰り返し、少年も同じ問いに同じ答えを言い続けた。
何回繰り返した時だったか。
少女がぽたぽた、涙を地面に這わせる音がした。
『えん、ど。行く…の…?』
少年は頷いた。
迷わず只、真っ直ぐに。
少女は何かを悟ったように『そっか』と呟いた。
『だから、風丸。オレはもうお前と一緒には居られ無いんだ。……幸せにな』
少年が少女の小さな頭を軽く叩いて、歩き出した。
新しい未来へと。
少女はその場に立ち尽くしたまま、声を殺して泣いた。
「ん……ゆ、夢、か…」
夕焼けの暖かい光を帯びた教室に風丸は寝てしまって居た。
「おはよう」
本をペラ、と捲りながら目付きの悪い彼女の友人が声をかける。
「…!豪炎寺……」
「余りにも幸せそうな寝顔だったからな、起こせなかった」
「起こしてよ…」
風丸は小さく欠伸をして半ば情けなそうな声を出す。
彼女は鞄を机の脇持ち上げ、帰り仕度をし始めた。
時計は5時を指している。
読んでいた本が終わったらしく、パタンと閉じると豪炎寺は風丸の方に振り向いた。
「お前、泣いてたぜ」
「……へ?」
「『嫌だ、嫌だよ円堂』……ってな。やっぱり、まだお前…」
━━ズキン。
風丸の心に鋭いナイフが突き刺さる。
違う、違う。
もう…未練なんか、無い!
円堂は、もう……。
「アハハッ。そんな馬鹿な。豪炎寺の気のせいじゃ無いのか?」
オレとは、もう
終わったんだ。
「……ハイハイ」
「さぁ、帰ろ!待たせて悪かったな」
夕暮れの帰り道ほど、人を悩ませる景色は無いだろう。
1日にあった出来事、
友達の事、
成績の事、
━━好きな人の事。
振り返るには最適な場所と時間だ。
別に豪炎寺と付き合ってる訳じゃない。
でも周りはそう認識している。
……実際はどうなんだろう。
「なぁ風丸」
「ん?」
「オレ達は付き合ってるのだろうか?」
「……はぁっ!?」
何を聞いてくるのかと思えば全くの想定外。
寧ろ自分が聞きたいくらいだって言うのに。
「何言い出すんだよ!」
「だっていつも一緒じゃないか。…それに周りだって」
トンッ…!
豪炎寺が風丸を軽く押して壁に凭れかけさせる。
そして自身は彼女の逃げ場を無くす様に両の手を壁に付けた。
「豪…炎寺…?」
「オレはお前が好きだ」
黒曜石の如く綺麗な、真剣な瞳から目を離す事が出来ようか。
彼女は唖然とし、彼を見つめた。
「ずっと、ずっと前から。お前が好きだったんだ。…円堂はもう、お前を守れ無いんだ。でも…オレは!」
「豪炎寺……」
分からないよ。
分からない。
そんな難しい事言わないで。
「オレと、付き合ってくれ」
「いい、よ」
不意に返事をしてしまった。
否、これで良かったのかも知れない。
これで……
これで、呪縛から解き放たれるならば。
「いいよ、豪炎寺」
改めて返事をした。
何故か、彼は悲しそうな顔をした。
切なげな微笑み、とでも言うべきだろうか。
「お前は凄いな、風丸…」
「え?」
「何で今日、円堂の夢なんか見たんだよ……」
「そ、それはもう3年も前の事だろ…」
「いいや、違うな…。今日はあいつが帰って来る日なんだ」
「あいつ……?」
「ほら、来た」
豪炎寺の視線の先を追った。
風丸は思わず、顔を下げる。
その瞳は大きく見開いていた。
昔よりも、
強く逞しくなった彼が。
小走りで自分達へ近づいてきた。
「おーい!豪炎寺ーっ」
相変わらず元気な声で。
「ん?誰か居るのか…?」
「風丸だよ」
豪炎寺が何事も無かったように円堂と話す。
円堂は「ああ!」とにっこり笑った。
風丸はゆっくり、ゆっくり顔をあげて彼の名を呼ぶ。
「円、堂」
「風丸、久しぶり!すっげぇ美人になってるもんだからさ、気付かなかったよ!」
━━嗚呼。
どうしてそんな事を言うの。
せっかく、お前を忘れる事が出来たかも知れないのに。
笑わないで。
優しい笑みを射し込まないで。
どうして、また。
オレの胸は高鳴るんだ。
夢を見て
君に会って
また恋しくなって。
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はいっ(^^)))
超長いSSでした(笑)
にょたイレっ!様参加作品です!