*** SS ***

□扉
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12月――


季節は冬を向かえ、街中が色取り取りの電飾によって染め上げられる頃……



普段は華やかさの欠片も持ち合わせない塾生達も、間もなく迎えるクリスマスに少しばかり心弾ませていた。






「クリスマスかぁ…俺達にゃ縁も縁もねぇが、やっぱいいもんだな……」



寮の窓から遠く光るイルミネーションを眺め、富樫はボソリ呟く。



その目に映る外の世界は光に包まれ、鮮やかに彩られていたが、彼等の現実といえば……




消灯時間が過ぎた暗く狭い室内に汗の匂いが染み込んだ質素なベッド、そしてそこに横たわるゴツイ男が数名。




「……はぁ…」



あまり世間とにかけ離れたその光景に、溜息の一つも吐きたくなるのも理解できる……










「なんじゃ〜?あの立て札はっ!?」




翌朝。登校してきた塾生達は、玄関脇に立てられた札に気付き誰もがそこで足を止める……





*********** 告 ***********



師走・二十四日深夜より塾生による贈答交換を執り行う!!

依って塾生は当日朝までに各々贈答品を用意し塾長室まで届けるべし。


尚、この時数名の配送役を選出する。



男塾塾長 江田島 平八


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『………』





ここ最近、塾長の悪ふざけに振り回されてきた塾生達はその内容に今更驚く事もなく……



「何だか…猛烈に悪い予感がするのぉ……」



毎度発せられる松尾の言葉に、誰もが勢いよく頷くばかりだった。









「で、所謂ところのサンタ役は誰になったんだ?」



行事の前日、教室の窓に寄りかかった虎丸は室内をグルリ見渡し声高にサンタの命を受けた者を訊ねる。



『………』



「な…何だよ……この中には居ねぇのか?」



だが、その質問に答える者はおらず、返ってきた痛々しい視線に虎丸は訳も分からず眉をひそめ……



「あのな虎丸……」




コソコソと歩み寄った秀麻呂に袖を引かれ、耳打ちされた中身に思わず息を飲む。




そして………




「プッ!?ブハハハハッ!!サンタ!?アイツが??似あわねーー!!」




「おい虎丸っ!?」




堪えきれず噴出した虎丸を秀麻呂が必死に制すが、そんなやり取りに怒気を溢れ出す男が一人。
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