この雪を溶かせたら

□この気温でその格好って…
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「でさー…いや待て…なーレッドさ、その格好寒くね?」



「………」



よくわからないけど



こいつは最近、俺に負けてからずっとここに通い詰めている



負けた、といってもこいつはそのときポケモンが一体しか戦える状態になかった



話しかけられたらバトルだと考えていた俺は気づかずバトルを始めてしまい



案の定、勝ってしまったのだ



が、その一匹のためにかなりの労力を要したのも事実



たった一匹でかなりの攻防戦を演じて来た



「ちょっと待って!タンマ!ねえあんた俺の声聞こえてんの!?」とか叫びながら



――…こいつが本気でかかってきたらどうなるのだろう



膨らむ期待と早く戦いたい気持ちがあるのに



そいつはあれ以来、一回もバトルをしようとはしなくて



代わりに毎日来ては外の世界の話をした



たまに俺の母さんのとこに行ったんだと話しをしたりとかするけど



ただ、俺のことを無理に聞こうとはしなかった



俺を幽霊とも思わず、呆れることもなく、飽きることもなく、毎日通い続けていたそいつは



決して俺を伝説だの最強だの言わなかった


 
強いとは言ってくるが、それは伝説としての俺じゃない



ひとりのポケモントレーナーとして



対等な立場からの意見だ



この真っ白な世界に俺はいつも独りだった



でもいつの間にか、そいつがいるのが当たり前になってた



一日来ないだけで少し心配になった



似てるんだ



俺がトレーナーとして間もない頃、一緒に旅していた


  プレイヤー
あの少年に――…



「…俺のピカチュウをあんなにあっさり倒したのはお前が初めてなんだ」



「え…?」



あの少年は、俺が伝説と呼ばれるようになった頃にまたきっと会えると姿を消した



新しい世界が広がって行くんだから、と



『レッド、僕は君を――…』



「レッド、俺はお前を最高の相棒だって思ってるから」



「…っ!!?」



「よし、やろうか、ポケモンバトル」



あの時の少年は幼く小さかった



トレーナーとしてじゃなくパートナーとしてそばにいたそいつは


  助けに
俺を倒しに来たんだ



帽子を抑える



「俺が勝ったらまずデパート直行だな、んで母さんに会いに行こう!それからリーグに喧嘩売りに行こうぜ!」


 
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