書
□僕と蚊の女ーボクとカノジョー
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化け物蚊はよく見ると白い花柄のワンピースを着ていた。袖の部分から二本ずつ腕(脚?)が出ているのが、なんだかおかしい。体をしっかり支えている二本の脚には、さすがに靴は履いていなかった。
どうやら蚊は雌のようだ。
そういえば、血を吸うのは雌だけだとどこかで聞いた気がする。
『うわわっ、うわっ、うわあ!』
『ビックリするのはわかるけど、少し落ち着きなさいよ。』
『なっなっなんだその、バカみたいにデカい体…っていうか喋ってるし!!蚊が喋ってる!!』
『ふん…蚊だって言葉くらい話すわ。普段は君達が聞き取れてないだけで。』
そう言って、腕を組んで頭をかしげてみせる。細い管みたいな口が、頭の動きに合わせて一緒に動いている。
気持ち悪い。
『なんたって体のサイズが違いすぎるからね。声が届かないのよ。』
―あ、そうか夢だ。
これは夢なんだ、早く起きなくちゃ!!
そう思ってギュッとほっぺたを捻ってみた。痛みが残るだけで、後は何も変わらない。
『えええええ。』
『アリ達もお喋りなのよ。
ただ彼らは私より小さいし集団で行動するから、何言ってんだかわからない事の方が多いんだけどね。
―ほら、教室でみんながお喋りしてると、友達の言葉が聞こえない事、ない?』
あんまりにも自然に言うものだから、慶太は一瞬なるほどな、と納得しそうになって、慌てて被りを振った。
イヤイヤイヤ落ち着け僕、蚊が喋るのは普通じゃない。ついでに人間サイズの蚊も普通じゃない。
何もかも、普通じゃない!!
慶太の動揺を、蚊も察したのだろう。
困ったように触角をピクピクさせて、どうしたら慶太がこの現実をわかってくれるか、考えているようだった。
『まあね、確かに今まで小さい生き物だと思っていたものが、突然巨大化して目の前に現れたら誰だって驚くわよね。
けど、こっちだって少しでも怖がらせないようにこうして服まで着てきたんだから、あんまり警戒しないでほしいわ。』
その気の使い方は明らかに失敗であると、慶太は思った。思っただけで、口にはしなかった。
『ほら、真っ赤な口紅も塗ってきたのよ。素敵でしょう?』
―それは、吸血のおべんとうだろ!!