短編
□透明人間
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「私は、透明人間になりたい」
どこかで聞いたことのあるフレーズだった。
透明人間?
唐突に言ったランカに、ペンを動かしていた手を止める。
顔を上げてランカを見つめると、当の本人は何かをノートに書き続けていた。
空耳か、と思い、ランカのノートに視線を走らせて見ると。
そこに書いてあるのは、数式でも年表でも楽譜の写しでもなく。
大量の猫のイラストだった。
「……飽きたのか」
ぽつりとアルトがそう呟いて見せると、ランカの手がぴくりと反応して、ペンを置いた。
「飽きてないよ!……ただ、ちょっとだけ、息抜きしようかなって」
「世間ではそれを飽きたって言うんだよ」
焦りを含んだ声にさらりと返すと、うぅ、と小さく呻き声を上げた。
「だって……わかんないもん」
「最初から全部わかるやつなんか居ない」
ランカのノートを手にとって見る。
一面に書かれた、猫、猫、猫。アルトは苦笑いを浮かべた。
「ほら、頑張れよ。俺たちとパーティするんだろ?」
「……うん」
しょぼくれたランカの頭をノートでこつん、と叩いた。