稲妻小説

□こっちを向いて
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少しだけ、
少しだけでいいから

もうちょっと
俺を見て欲しい

いや、違うな。
しいて欲をいえば…



こっちを向いて



「よし来い鬼道っ!!このシュート絶対に止めてみせる!!」

「いくぞ円堂っ!!」

「おうっ!!」


ギューンッと鬼道から
勢いよく放たれたサッカーボール。

滞空時間が伸びるにつれて、
徐々にボールは速度とパワーを増していく。

ボールが真っ直ぐに向かっていく先には、ゴールの前でニッと笑みを浮かべた円堂の姿。

あぁ、その姿すら
今は愛しく思えてくる。

瞬間、ズバァンッと大きな音がしたかと思いきや、ボールは綺麗に円堂の手の中に収まっていた。


ボールを止める事が出来て本当に嬉しいのか、円堂はまるで太陽のような笑顔で笑う。

俺は、そんな円堂が
心底可愛くて仕方がない。

今にも緩んでしまいそうな表情を、必死に抑えている自分。

でもまぁ
それはいつもの事だ。

俺は、サッカーと本気でぶつかりサッカーを心から愛している円堂に導かれて

またサッカーを始めようと一歩を進める事が出来た。


それと同時に、『円堂守』という存在に友情を越えた感情を持つようにもなった。

俺の想いは円堂に伝わり、また円堂も俺と同じ想いで居てくれてたという事を知った時は

本当にこれ以上はない
というほど嬉しかったし、

何より円堂が俺の側に居てくれる、ただそれだけで幸せだった。

もちろん今でも
俺はとても幸せだ。

だが…


「円堂!!」

「ん?どうした風丸?」

「ちょっとポジションの事で相談があるんだが…」

「おう!!全然かまわないぞ!」


とにかく円堂は
とんでもない博愛主義者だ。

サッカーをする者は、
敵だろうが何だろうが全員仲間!!をモットーとするサッカー馬鹿。

だから、サッカーにも
チームメイトにもいつも全力で向き合う。

それはとても円堂らしくて
立派な事だけれど、

俺は毎日毎日
気が気で仕方ない。

円堂はただでさえモテる。
その人柄で誰からも愛され、そして好意を受けている。


そんな好意に気がつかないのが円堂だ。

アイツの鈍感ぶりには
本当にいつも驚かされる。

それに、円堂はサッカーの事になると全く周りが見えなくなる。


もちろん、恋人である
俺の事なんか何一つ眼中に入れていない。

風丸や鬼道などと、フォーメーションの話をしている時だってそう。


ハッキリ言って、
サッカーやチームメイトに嫉妬するなんて…幼稚な考え方だ。

しかし俺は本当に
円堂が好きで愛していて、円堂には俺だけを見ていて欲しいと思っている。

だから今、円堂が風丸と話しているのを見るだけで本当に苛ついてしまう。


こんな俺を知ったら
円堂は俺を嫌うだろうか?

それ以前に、まず円堂は
本当に俺が好きなのだろうか?


頭の中に、そんな嫌な
思考が浮かんでは俺を苦しめる。

円堂、頼むから
俺だけをみてくれ…。

と絶対に無理な考えを
苦し紛れによぎらせては、頭を振り消し去ろうとする。


するとその時、
グラウンドから自分を呼ぶ聞き慣れた大きな声が響いた。


『豪炎寺ーっ!!』


ふと相手を見てみれば、
最愛の円堂が小さく手招きしながら俺を呼んでいる。

俺が急ぎ足で円堂の元に向かうと、円堂はそのまま俺の手を引き、部室の裏へと連れて行った。


『円堂?何故俺をこんな所に…』

「んー…なんかさ、豪炎寺の様子が変だったから。心配になったんだ」

『心、配…?』

「あぁ、お前今日ずっと泣きそうな顔してたから」


少しだけ悲しそうな表情をしながら、円堂は無理やり笑顔を作っている。

…何をしてるんだ俺は。


俺は、円堂にこんな表情をさせている自分にヒドく腹が立った。

俺のつまらない嫉妬のせいで、円堂に心配をかけている。

本当に、情けない。
よりによって自分が一番大切に思っている人に。


「豪炎寺、なんか辛い事でもあったのかなって…。だったらさ、俺少しでも力に…ってうわっ!!」


円堂が全てを話し終わる前に、俺は円堂を抱き締めていた。

愛おしく、円堂の優しい茶色の髪を撫でながら強く抱き締める。


肝心の円堂はというと、
顔を真っ赤にしてアタフタと慌てている。


「えと、あの…豪炎寺?いきなりどうしたんだよ?//」

『…円堂、すまない』

「は?な、何がだ?」

『俺、少し嫉妬していたみたいだ。その、お前が風丸とか鬼道とか…サッカーしか、見てないから//』

「しっ、と?」


あぁ、そうだ。
と短く答えてまた円堂を強く抱き締める。

すると少しして、円堂からクスクスと小さな笑い声が俺の耳元で聞こえてきた。


『円堂、なんで笑って…』

「ハハッ、だって豪炎寺馬鹿だなって思ってさ!!」

『…馬鹿?俺がか?』


挙げ句の果てに
馬鹿扱いされる始末?

俺は円堂の言葉に少し
ムッとしたが、次の円堂の言葉でその感情は跡形もなく叩き潰された。


「だって俺サッカー好きだけど、一番好きなのは豪炎…ううん、修也だから!!」


ニカッといつもの温かい笑顔を浮かべた円堂は、

次の瞬間、チュッと啄むようなキスで俺の唇を奪った。


それから呆然としている俺の前で、円堂は顔を真っ赤に染めて本当に恥ずかしそうだ。


「お、俺がこんな事するのは…修也だけだからなっ///」


円堂が下を向いて
うっすら目に涙を溜めながらポツリとそう言った瞬間、

俺は円堂をその場に
押し倒していた。


本当に、俺は
お前しか見えていないな。




end.

(ご、豪炎寺?!)
(悪い守。お前が可愛すぎて我慢出来そうもない)
(ちょっ//えぇええ?!)


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