蒼海

□誕生
1ページ/7ページ




「アリシア、最近おかしくない?」

姉の一人がそう言う。

「そうね…静かになったかも。」

「何かあったのかしら。」

「最近、外にだって出て行かないじゃない。おばあさまのところにも行ってないって話よ?」

「あら、珍しい。何かよくないことが怒る前兆かも。」

そんな冗談に姉たちは笑う。それでもアリシアはずっとあの銀の小さな棒を見つめている。先が3本に分かれた人間が作った棒。

「ねえ、アリシア。」

アリシアは答えない。ずっと手元にある棒をいじって、それを見つめている。

「アリシア!」

「…えっ。」

やっとのことで姉たちの方を振り向いた。

姉たちが自分のことをじっと見ている。どうしたのだろう。

「ど、どうしたの?」

「ねえ、アリシア、あなたおかしいわ。」

「どうして?」

「何もしゃべらないじゃない。何かあった?」




何かあった?



そう聞かれるとどうしても灰色の瞳が浮かんでくる。太陽の光で儚く見えたあの灰色の瞳。彼は今、何をしているのだろう。あの2本の足で暖かい太陽の下を歩いているのだろうか。

「アリシア?」

「えっ…?」

「もう。」

姉がため息をつく。

「アリシア、あなた、恋でもしたの?」

「…恋?誰に?」

「それは私たちのセリフ!!」

「え?」

この妹は一体何を考えているのだろう。姉たちにまで分からなくなってしまう。

「だってあなた本当におかしいわ。ぼーっとしちゃって。」

「ねえ、悩みがあるなら姉さんに言ってごらんなさいな。」

悩み。
そう言われて考えてみる。そしてふと口を開いた。

「灰色…」

「はいいろ??」

「あの…灰色の瞳って姉さんたちはどう思う?」

そんな妹の言葉にきょとんとしてしまう。

「灰色の目?あ、もしかしてアリシアの好きな人の目?」

好き?人間を?そんなはずない、そう思って首を横に振る。

「違うの〜?なんだ〜。」

「でも灰色の目って珍しいんじゃない?私の恋人の中に灰色はいなかったわ。でも私は青の方が好きかしら。」

「ええ!?断然黒でしょう!!あの真っ黒な感じが素敵じゃない?」

「何言ってるの。緑よ。まるで宝石よ!」

そんな姉たちの討論を見てため息をついてしまう。






灰色の目。

それが彼の瞳。

名前も分からない、あの彼。





再び座って銀の棒をいじる。

それを見つめる。




人間の世界の物。

これを触っているだけで、あの人と繋がっていられるような気がする。

もう、逢うことはないけれど。

あの瞳で見つめられることはないけれど。

きっと忘れることはない。

この棒を見て私はきっと思い出す。何年先も。

たとえ、年老いてしまっても。

この繋がりさえあるならば。



アリシアは静かに目を伏せた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ