薄桜鬼book

□欲の代償として
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「斎藤さんっ!」


守ってほしい。
側に居てほしい。
愛してほしい。



欲の代償として



いつものように、私は斎藤さんの後を着いて歩く。
沖田さんに言わせれば、カルガモの親子……らしい。
よくわからないけど、斎藤さんと居るのは幸せ。
何も話さないけど、幸せに包まれる時間。
だけど、今日に限って違った。


「何用だ。」

「え……?」


いつもは何も言わない斎藤さんは、そう私に切り返す。


「あ、いえ、特に…。」


別に、用はない。
いつものように、斎藤さんと今日も居たいだけ。


「なら、何故俺を呼んだ?」

「っ……。」


いつものように呼んだ。
いつものように、いつものように……。
いつもと違う斎藤さん。
どこか冷やかな言葉を返す斎藤さん。


「あ、あの……。」


口ごもる私を見た斎藤さんは、珍しく溜め息をついた。


「あんたは、何か勘違いしてるようだ。」

「…え……?」


突き刺すような視線に、足がすくむ。


「俺たちは、新選組隊務として、危機が迫ったとき、あんたを護る。」

「……?」

「気は抜けぬが、危険が微塵も感じられぬ今。
 あんたの側に俺が居なければいけない理由はないはずだ。」


―――――邪魔だ。迷惑だ。


「俺は副長に従い、隊務を遂行する。もしその先に阻むものがあるのなら、俺は――…。」

「…………すみません。」

「……、…。」



何かを言いかけた斎藤さんは口を結び、身を翻して去っていく。
隊務を従順にこなす斎藤さんにとって、私は邪魔でしかなかった。
……ひっそりと打ち明けられた感情は、私の心を揺るがした。

うかれてた。

私が、ここで求めるべきは【父様】。
他のものを求めてはいけない。
望んではいけない。願ってはいけない。
だとしても。


「さいとう…さん……っ!」


欲の代償は、あまりにも大きすぎた。
彼が消えた屯所を見据えた目から、何かが流れ落ちた気がした。






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