薄桜鬼book

□障子一枚の隔たり
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月明かりを浴びた障子にひとつ、影が浮かび上がった。


「誰…?」


熱で気だるい体を起こせば、影はゆらりと揺らいだ。





 障子一枚の隔たり





その影は、ゆっくりと障子の向こう側に座り込んだ。
見覚えのあるようなないようなそんな影に、私は嫌な予感を覚えた。


「風間さん…ですか?」

「………ああ。」

「なっ……!?」


危険。どどどどうしよう。
逃げたほうがいいよね!?け、けど唯一の出入りが出来る障子の向こうには風間さんが居るし…。
そ、そうだ。叫べばきっと誰かが…!!


「仲間を呼ぶなどと考えるな。無駄な死人が出るぞ。」

「っ……。」



……確かに、そうかもしれない。
決して新選組の皆さんが弱いわけじゃない。けど……力の差があるのは認める。
もしここに誰かを呼んで、その人が殺されたりしたら――――…考えたくもない。
それなら連れて行かれたほうがいいの…かな。


「―――風邪を引いたらしいな。」

「……どうしてそれを?」

「さあな。」


別に、知っていようが驚きはしなかった。
彼らのことだ。新選組の内情だって、手に取るようにわかるんだと思う。
二人の間に流れる沈黙。
それに違和感を覚えた私は、ふたたび口を開く。


「連れて行かないんですか?」

「…何をだ?」

「な、何をって……、私をです!いつもそうしようとしてるじゃないですか。」

「ふん……今日は見逃してやる。伏せている奴を連れ帰ったところで、邪魔になるだけだ。」


……それ、結婚を迫ろうとしてる相手に言う言葉かなあ。
そんなことを思いながらも、そんな障子の向こうからの声に、私は安堵の息をつく。


「それに、敵の居ない場所でこんなに易々と奪うというのもつまらん。」

「……そうですか…。」


なんか……なにがしたいんだろう、この人は。


「だから今は、休め。」


その言葉に、私は大きく目を見開いた。
急いで障子に手をかけようとして―――止めた。
私の突然な動きに影が大きく揺らいだからというのも、ひとつの理由。
ただ――――開けてしまったら、彼の本当の気持ちを、優しさを、知ってしまう気がして。
そして……敵だとは思えなくなってしまうような気がして。


「まさか…あなたはっ……。」


ひとつの予感を胸に、恐る恐る、胸を震えさせながら私は問う。


「ただ一族のことばかりを考えてるフリをして……本当は…本当は本気で…その、私を――――」

「休め。」

「――っ。」


手が、一枚の障子の前に震えた。
彼は今、どんな顔をしているのだろう。
彼は今、何を考えているのだろう。
彼は今、何を感じているのだろう。
答えは、この障子一枚の隔たりの向こう。近くて遠い、そんな距離。


「……これからも、敵ですか?」

「………。」


障子の向こうから、もう答えはない。

そしてこれからも、その答えはないのだろう。







fin


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