パンドラ現パロ

□実はずっと近くに
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ブレイクとの一件があって一週間後、レイムはベッドの中でうずくまっていた。

「あ…頭が痛い…。」

もちろん、仕事バカの最上級と称されるレイムが理由もなく休んでいる訳ではなく、彼は今凄まじい頭痛と長引く熱に襲われているのだ。

医師には風邪だと言われ、インフルエンザでなかったのは一安心だが、生徒に移してはいけない。
レイムが休みを伝えると電話の向こうの同僚、ギルバートは初めは「ええぇ!?」とすっとんきょうな声を出したが、レイムの体調の悪さを感じ取ったのか、よく休むようにと何度も強く念を押してきた。
確かに、弱りながらも仕事をするレイムの姿は誰にでも容易に想像できる。

「…はぁ……。」

レイムは誰もいない部屋を見回した。
こういう弱った時くらい誰かに側にいてほしい。

「…ザクス……。」

ポツリと無意識に彼の名前が口からこぼれた。

「!?な、な、なんで彼の名前を呼んでいるんだ、私は…!」

レイムは思わずガバッと飛び起きた。だが、その行動が頭に響いてしまったらしく、痛みが増した頭を苦しそうに両手で押さえた。

「痛たたたた……っ!」



ピンポーン…


「あ、はい!」

レイムは突然鳴った玄関のチャイム音にビクッとしたが、ダルい体を無理やり起き上がらせ、壁で体を支えるようにしながらドアを開けた。


「こんにちは。お久しぶりですネ、レイムさん。」

「……んなっ!?」

ドアの前に立っていた人物を見るなり、レイムは反射的にドアを閉めようとした。

「ちょ…何で閉めるんですカ!!」

「い、忙しいから!頼むから帰って下さい!いや帰ってくれ!!」

「忙しいも何も、体調不良で休んでるんじゃないですカ!」

レイムが閉めようとしたドアにセールスの如く素早く足を挟んだブレイクとドア越しの激しい口論が始まった。
レイムはブレイクの足を押し退けてドアを閉めようとしたが、ただでさえフラフラに弱ったレイムが力で敵うはずはなく、ブレイクに無理やりドアをこじ開けられた。

「な、なんで私の家を知っているんだ!!」

「貴方が私の電話もメールも無視するから、学校に行ってみたんですヨ!あのアホ毛校長が全部教えてくれましタ!」

「…っ!あの人は…個人情報の時代に何をしているんだ…。」

レイムは自分が高校生だった時からいる、あらゆる意味で超人と呼ばれる校長にため息しか出なかった。
怒鳴っていると頭に声が響いて痛い。

「何故、あの時逃げたんですカ。レイムさん。」

「な…っ!私は逃げてなんていない!本当に用事があったんだ!」

「嘘言わないで下サイ。少しの間しかありませんが、私が理解している貴方の性格上、本当に用事があったら何度も何度も電話やメールで謝ってくるデショウ!」

レイムはグッと眉根にシワを寄せた。頭痛がひどくなってきた。

「だから!忙しくて…!」

「私はレイムさんに何か嫌な思いをさせましたカ?」

悲しそうなブレイクの言葉にレイムの肩がピクリと揺れた。

「な…」

「私は、レイムさんが突然いなくなった事を怒っているんじゃありません。レイムさんが嫌な思いをするような行動を無意識にしていた自分に腹がたっているんデス。」

レイムは立っているのすらキツくなり、壁にもたれ掛かった。

「貴方が…ザクスが悪いんじゃない!!私が勝手に怖くなって逃げただけだ!だから…だから申し訳なくて…電話にもメールにも出られなかった。」

「…何が怖くなったんですカ?」

ブレイクは赤い瞳をまっすぐレイムの瞳に向けて尋ねた。

レイムはズルズルと床にへたりこみ、ブレイクから視線を反らした。何故か彼をまっすぐ見られなかった。


「…ザクスが、ファンの人たちに囲まれているのを見て…ザクスがすごく遠くにいるのに気付かされたようで…!分からないが怖くなったんだ!!私にも分からない!」

八つ当たりしている子供のようだと自分でも思い、レイムは顔を膝に埋めた。ブレイクは呆れた顔で自分を見ているに違いないと思った。



「…馬鹿ですネ。レイムさん。」

ブレイクの声に全身がビクッと揺れた。
ブレイクはそのままドアに向かうだろうというレイムの予想は外れ、彼はレイムの正面にしゃがみこんだ。


「私は貴方が思っているよりも、ずっと近くにいるんですヨ?」

「…は?」

視線だけをブレイクに向けると、彼はニヤリと笑っていた。彼の肩に乗っている人形そっくりな笑い方にレイムの眉の間のシワがさらに深まる。

「いえ。本当の事を言わせてもらえば、常に貴方の近くにいたいんです。私は。…分かりマス?」

「…?どういう…?」

「…あー!!もう!国語教師なのに鈍感ですネ!!」

「な、国語教師は関係ないだろう!!」

レイムはブレイクに反論をしようとバッと顔をあげた。

「貴方のことが好きなんですヨ、レイムさん。」

「………え…?」

理解したレイムの顔が音がしそうな程一気に真っ赤になった。ブレイクはレイムの反応に、最初の不機嫌そうな顔はどこへやら、楽しくてしょうがないといった表情で笑った。

「クックック…お分かりですカ?」

「わ、私は男…!」

「だってレイムさんだって私が好きなんデショー?」

「は、ええぇ!?」

「大丈夫、いつか分かりますヨ。とりあえず、ここじゃ治るもんも治りません。ほら立って。」

ブレイクは真っ赤な顔で狼狽えているレイムを立ち上がらせ、ベッドに寝かせると丁寧に布団をかけた。

「御飯はもう食べたんですカ?」

「いや…あ、食べてない…です。」

「敬語はもう不要。じゃあお粥作ってあげますから寝てて下サイ。」

「あ、ああ…。」

レイムの額に冷えピタを貼ったブレイクはニッコリと笑った。
その笑顔が何となくくすぐったく感じて、レイムは顔を横に向けた。


「早く良くなって下さいネ、レイムさん。」

「…うん。」

ブレイクはレイムの頭を優しく撫でると「台所借りますヨー。」と独り言のように言って、歩いていった。

頭痛はいつの間にか軽くなっていた。

「…………。」

台所で鼻歌混じりにお粥を作るブレイクを見ていたら不意に眠気が襲ってきた。

心にのしかかっていた重みが消えた感じがする。

「(いつか分かる…か…。出来れば…早く分かりたいんだが…。)」


そんな事を考えながら眠りに落ちていくレイムを横目で見たブレイクはクックッと笑った。

「気付くのも、そう遠くないんでしょうネ…。愛してますヨ、レイムさん。」

生活感の感じられない整頓された部屋には、久々に温かい空気で満たされていた。







[後書き]
書☆き☆き☆っ☆た☆!!いやー…ここまでの道のり、遠かったッスー(笑)
あとはまぁ、付き合っちゃえばいいよ←

レイムさんは恋って感情が分からないレベルの初恋だったら萌える(笑)

温かい空気…?甘ったるい空気の間違えでしたね!(笑)
 

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