パンドラハーツ

□母親自慢
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「あ、こら!リリィ!」

辺りがすっかり暗くなった頃、コソコソと隠れるようにして帰って来た小さなオレンジ色の頭にロッティの鋭い声が飛んだ。

予想通り、ソファの後ろからリリィが顔を出した。

「な、な、なんだ?ロッティ!」

「隠しても無駄よ!ここに来なさい!」

ロッティが自分の真向かいのソファーを指差すと、リリィは頬を膨らませながらもそこに座る。

その様子を遠くから眺めていたダグは怒られる子犬みたいだなぁ…と一人無表情のまま思っていた。

「全く!またパンドラに行ってたんでしょ!」

「い、行ってないぞっ!」

「嘘おっしゃい!じゃあ何処に行ってたのよ!」

「うぅ…う〜。」

両手を腰に当てて怒るロッティからあからさまに視線を反らして口を尖らせるリリィにファングが困ったように笑い、仲裁に入る。


「まぁまぁ…ロッティさん。そんなに怒らないであげてください。」

「ちょっとファング!」

リリィの肩を持ったファングにイライラと怒鳴るロッティは今にも口から火でも出そうな勢いだ。

ファングがリリィ側に回ってしまえば状況は二対一になってしまう。


…一応はダグも同じ部屋で毒薬を調合しているのだが…どうせ話さないのでバスカビルの女王様は話を振ろうともしない。


「(……自分は空気どころか元素程度にしか思われていないだろうなぁ…バスカビル1の巨漢なのに…元素。)」

ダグが一人心の中でぼやくが、もちろん誰にも聞こえてはいない。



「大体!パンドラは私達の敵なのよ!?遊びに行っているのが見つかって、いつ殺されたっておかしくないの!分かる!?」

ロッティはとうとう頭を抱え、目の前の二人に言葉を一言たりとも挟ませない剣幕で喋り出した。

噴火ギリギリの女王様の剣幕に、リリィだけでなくファングまでもがヒクヒクと口の端を痙攣させることしかできない。


「特にねぇ…!特に!あのヘラヘラしてて、青いキショイ人形乗せてるイカレ糖尿病くそ帽子屋なんてねぇ!!」

「ろ、ロッティさん。イカレ帽子屋ですよ。」

「ほとんど同じでしょ!!」

「あ、はい。そうですね、その通りでした。すみません。」


かなり身長のあるファングが、この数秒の間に少なくとも二回りは縮んだ気がする。


「あの男なんか何考えてるか分からないし、ああいう奴は、仲間だって利用する事だってあるんだから!!リリィのお気に入りのレイムさんとかいう人だって、彼に利用されてるかもしれないでしょ!!」

「それはないぞ?」

それまで俯いていたリリィがきょとんとした顔でロッティを見上げ、首をかしげた。

「はぁ…何でそんな事が言えるのよ!」

「だって、ブレイクはレイムが何よりも大好きなんだぞ?ブレイクはレイムを傷つけるような事はしないんだ!」

予想だにしていなかった爆弾投下にロッティの目が点になり、ファングの糸目が開眼した。

「え…大好きって…」

「二人は'こいびと'っていうヤツなんだ!」

リリィが何故か誇らしげに三人に言う。

…その事実をリリィが誇れる理由は特にないのだが。

「ブレイクに『男が好きなのか?』って聞いたらな、『そんな訳ないでショウ。私は、レイムさんだから好きなんですヨ!』って言ってた!」

リリィは話すうちに段々と楽しそうな笑顔になっていった。
爆弾投下に固まっていたロッティ達もリリィにつられて困ったように苦笑いしながらも、リリィが一生懸命に語る話に耳を傾けだした。

何だかんだ言いながらも家族同然に仲が良い集団なのだ。この四人は。


「レイムはすごくいい奴でな!色んな事を教えてくれるし、私が行ったことが無いところにも連れていってくれるし、頭も凄くよくて…あ。あと、前にロッティが『酒に酔って暴れる男は駄目よ』って言ってたけど、レイムは酔わないらしいから大丈夫だ!問題ない!」

傍聴二名の視線がチラリと一人に集中する。

「ロッティさん…何を教えているんですか…。」

「いいじゃない。別に。ガールズトークに口出ししないの!…………それにしてもリリィ。レイムさんって人の事、本当に大好きなのね。」

「うん!」

ファングのツッコミをいとも簡単に一蹴したロッティの言葉に迷うことなく大きく頷くリリィは幸せそうな満面の笑みを浮かべている。

元々リリィは表情豊かな子どもだが、ここまで幸せそうに笑うリリィの顔は珍しく、見ている方まで幸せになってくるのだ。

すっかり怒る気を削がれたロッティはクスッと笑ってリリィの頭を撫でた。

「…じゃ、次に行くときは言いなさい。すっごく可愛い格好にしてあげる。それでレイムさんを驚かしてやりなさい!」

「え、本当かロッティ!」

「ええ!もういっそ、帽子屋から恋人の座を奪いなさい!」

「ちょ、ロッティさん。何を教えて…!!」

「いーのよ!」

「いや、ダメでしょう!」



夫婦のような口論を再びしだしたファングとロッティを他所に、嬉しそうにバタバタと部屋を走り回るリリィの頭をダグがワシワシと大きな手で撫でた。

「…良かったな。」

「うん!早くレイムに会いに行きたいぞ!!」

リリィの嬉しそうな様子にダグは少しだけ微笑んで毒薬の入った瓶をテーブルに置き、のんびりとリリィを担ぎ上げてファングを救出に向かった。

赤いローブに包まれたアヴィスの使者、バスカビルの民達は今日も平和な時間を過ごしていた。








(おまけ)
「くしゅんっ!」

「おー、クシャミらしいクシャミで…へくしゅ!!」

「くしゅっ!!な、何なんだ?一体…。」

「…まさか、契約の進行とかですかネ?」

「いやいや、それはないだろう。クシャミが契約進行の証なんて…地味な嫌がらせでしか…くしゅっ!」

「…あああぁ、レイムさん……おいたわしい……。」

「うるさいザク…しゅんっ!」

「ザクしゅん!?」






[後書き]
弥生さん、リクエストありがとうございました!!
遅すぎる上に駄作で実にすみません…お詫びとして、ちょっくらアヴィスに落ちてきます←

書いていて楽しかった作品でした!(笑)
こんなのでよろしかったら貰ってやって下さい!もちろん返品可です!ノシ
 

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