パンドラハーツ

□主たる者の務め
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バルマが何か良からぬ事を思い付いたその日の晩、何も知らないレイムは、部屋主の性格が反映された、整理された自室で明日のスケジュールを確認したり、パンドラの仕事をしたり、眼鏡を拭いたりといつも通りの事をしていた。

「はぁ…。」

ため息をついた途端に、軽いノックの音が部屋に響いた。

「誰だ?」

扉の方に尋ねてみたが、返事がない。不思議に思い、首を傾げながら扉を開けてみたが、扉の前どころか廊下には誰もいない。人っこ一人、チェシャ猫一匹いない。

「あ、あれ?…誰かノックしなかったか?…気のせいか?」

疲れてるのか?と思い、レイムは扉を丁寧に閉めた。

「鍵はかけなくてよいのか?」

「ぴょっ!?」

背後から聞こえた声にレイムが振り返ると、深紅の長髪…今さら見間違うことなきバルマ公爵がベッドで足を組んでくつろいでいる。

「な、にょ!?え!?ルーファス様…!?どど、ど…」

「相変わらず面白い奴じゃのう。まぁ掛けろ。」

そこ、私のベッドなんですが…と心の端で思ったが、「失礼します…」と言って、ベッドに浅く腰掛けた。

「で?」

「はぃっ!?」

二人しかいない静まり返った、謎の緊張感に包まれた部屋にバルマの声が響き、裏返ったレイムの声も響いた。

「レイム。汝、最近何かあったようじゃな?」

バルマの言葉にレイムの肩が大袈裟にビクッと跳ねた。

「な、何もありませんが?」
「……下手くそ。ほーれ、何かあったんじゃろう?」

相変わらずの可愛らしいデコをペチペチと叩くとレイムは「痛っ、痛っ。」と小さく言いながら、何かを耐えるように薄い唇を噛んだ。
「主人であるルーファス様に、私の相談などできません!」

レイムがそういった瞬間にバルマの手が止まった。
不安になったレイムが顔をあげると、バルマが眉根にしわを寄せて、呆れたようにレイムを見ていた。

「………本っ当に、お前はつまらんガキじゃのう。」
「え!?なん…!?も、申し訳ありません!」

もうガキという年齢でもないが…何故バルマが不機嫌になったかも分からず、とりあえず深々と謝った。
今日もヘタレ二位は絶好調のようだ。

「はぁ…。」

大きくため息をついたバルマの手がレイムに伸びた。レイムは思わず、ぎゅっと目を閉じた。
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